こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
富山県が立入調査した結果、医薬品メーカーのアクティブファーマが富山県から社内調査を求められている、と報じられました。アクティブファーマが、医薬品の有効成分である原薬を、国から承認された手順外の方法で製造した薬機法違反の可能性があることが理由のようです。
本件と同様に医薬品メーカーが国から承認された手順外の方法で製造した事例としては、2021年3月3日に、ジェネリック医薬品メーカーの日医工が富山県から業務停止処分を受け、その後、経営状態の悪化から事業再生ADR手続を開始し、2023年3月29日に上場廃止したケースが記憶に新しいところです。
同業他社である日医工で不正・不祥事が発生したときに、それを知ったアクティブファーマは、その時点で、どう対応すべきだったでしょう。日医工とアクティブファーマに限らず、同業他社で不正・不祥事が発生したときの振る舞い方はどうあるべきか、と整理することもできます。
同業他社の不正・不祥事を他山の石としない
日本システム技術事件判決やリソー教育事件判決によって、取締役・取締役会が構築すべき内部統制システムは「通常想定される不正行為を防止できる程度の体制」であることが求められます。
同業他社で発生した不正・不祥事は、その内容が業務の中核に関するものであればあるほど、自社でも起きうる「通常想定される不正行為」です。
日医工で発生した「国から承認された手順外の方法で医薬品を製造した」不適切な製造方法は、同じ医薬品メーカーであるアクティブファーマでも発生が想定される不正行為です。
そのため、アクティブファーマの立場では、日医工で発生した不適切な製造方法の内容を自社に置き換えて「自社でも同種の不正・不祥事は隠れていないか?発生する要素は隠れていないか?」と点検し、検証すべきでした。
少なくとも、そういう問題提起が取締役会がなされるべきでした。もし、その時点で点検、検証をしていたら、富山県による立入調査が行われる前に改善が済んでいたかもしれません。
日医工とアクティブファーマに限らず、同業他社で発生した不正・不祥事を他山の石とするのではなく、自社に置き換えて、自社で発生する可能性がないか、既に発生しているのではないかは、点検、検証し、必要に応じて対処するようにして欲しいです。
取締役が企業危機管理に関する意識を有しているのであれば、自らそのような提言をするように努めて欲しいと思います。
同業他社の調査報告書を参考にする
同業他社で起きた事例をきっかけに自社の点検、検証をする際には、他社が公表した調査報告書を点検、検証の手引きとして参考にして利用することをオススメします。
同業他社の調査報告書には、事案の詳細のほか原因などが記載されています。再発防止策の提言が書かれていることもあります。
日医工の調査報告書(リリース14頁以降)では、項目、原因、再発防止策の提言が一覧表の形になっており、日医工に限らず同業他社でもチェックシートとしても使用することができるほど、情報が整理されていました。
こうして公表された資料を、自社の重要チェックリストとして利用すれば、ゼロから点検、検証の項目を考えるよりも、効率的に点検、検証を行うことができます。
企業危機管理のコツ
内部統制システムやコーポレートガバナンスという切り口で考えると、大層なことをしなければならないと思いがちです。
しかし、そう構える必要はありません。
大規模な地震や火災が起きたら自社の防災体制を点検するのと同じように、同業他社で不正・不祥事が発生したら、その都度、自社の体制を点検し、必要に応じて体制をアップデートしていけばよいだけです。
同業他社・・と書きましたが、同業他社の不正・不祥事にこだわる必要もありません。
業界の違う会社で起きた不正・不祥事であっても、自社の業務で起きることはあるかもしれません。
常日頃から、他社のニュースを見ながら自社に置き換えてシミュレーションする癖をつけると、企業危機管理をうまくできるようになります。その結果、内部統制システムやコーポレートガバナンスを構築できることにもなります。
できることから一歩ずつ取り組んでみてください。