プロルート丸光が相場変動の目的をもった偽計の疑いで、証券取引等監視委員会と東京地検特捜部が捜査。情報開示前の社内での事実確認のあり方。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

衣料品卸売会社のプロルート丸光が金融商品取引法(偽計)の疑い、つまり相場変動の目的をもって偽計を用いた疑いで証券取引等監視委員会から2022年11月に強制捜査されていることが明らかになり、東京地検特捜部からも任意で捜査されていることが報じられました。

今回は、金融商品取引法が禁じる偽計とは何かについて解説します。

※2023/11/03追記

10月31日、証券取引等監視委員会は、元社長、前社長、元筆頭株主ら計5人を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の容疑で告発しました。

捜査は偽計だったものの、告発は有価証券報告書虚偽記載の被疑事実です。

プロルート社の21年3月期の連結決算で実際には営業損失が約6900万円など赤字だったにもかかわらず、5人が共謀して架空の売り上げを計上。営業利益約6300万円など黒字に転換したと偽った有報を近畿財務局に提出した疑いがある。

2023年11月1日 日本経済新聞

※2023/12/07追記

プロルート丸光は、12月5日に大阪地裁へ会社更生法の適用を申請し、同日、保全管理命令、強制執行にかかる包括的禁止命令、保全処分命令及び調査命令を受けました。

※2024/08/04追記

2024年7月22日、プロルート丸光の元社長は、懲役2年、執行猶予4年の有罪判決が言い渡されました。

相場変動を図る目的をもった偽計

報道と開示されている資料によると、問題になっているのは、以下の開示と発表です

金融商品取引法は、相場の変動を図る目的をもって、偽計を用いることを禁じています(158条)。

偽計とは、他人に誤解(錯誤)を生じさせる詐欺的あるいは不公正な策略や手段のことで、典型的なのは、虚偽を記載した文書に基づいて投資家に金融商品を販売する場合です。

不特定多数を相手とする風説の流布と異なり、特定少数者に向けての情報だけに虚偽が含まれている場合も偽計に該当します。

過去には、クレスベール証券の取締役(当時)と東京支店資本市場担当部長(当時)が共謀して、プリンストン社が発行する私募債(プリンストン債)を売買するにあたって、日本銀行と大蔵省の承認が得られていないのに「当局の承認が得られている」と虚偽の事実を記載した資料を交付したことで証券取引等監視委員会から刑事告発され、罰金30万円を命じられたことがあります(東京簡裁2001年3月22日、東京高判2003年11月10日、最判2006年11月20日(上告棄却))。

また、クレスベール証券の会長は、プリンストン債の販売に際し虚偽の記載のある半期報告書を交付し、かつ虚偽の説明をしたことで証券取引等監視委員会から刑事告発され、懲役3年、罰金6400万円を科せられています(東京地判2002年10月10日)。

プロルート丸光の場合は、2019年12月のSanko Adobanceの子会社化、2021年8月16日の新型コロナウイルス関連の情報に虚偽が含まれていた可能性があるようです。

相場の変動を図る目的

金融商品取引法違反となるは、相場の変動を図る目的であることが必要です。

過去には、上場廃止を回避するため、増資に伴う株価の大幅な下落を阻止する目的での開示が、「相場の変動を図る目的」であると認められ、懲役2年6か月・執行猶予4年、罰金400万円、追徴金約3億0147万円を科せられた裁判例もあります(ペイントハウス事件/東京地判2010年2月18日、東京高判2010年11月30日、最判2011年3月23日)。

株価の上昇・下落を目的とする以外に、こうした株価維持目的(PKO)の情報発信も、相場の変動を図る目的に含まれることには注意が必要です。

プロルート丸光の場合には、新型コロナウイルス関連の情報を発表翌日に株価が300円台から730円まで上昇し、そのタイミングで、筆頭株主のWealth Brothers が400万株を売り抜けています。

当時の新型コロナウイルス関連の情報を公表することが、株価を上昇させる要因になっているのか市場の傾向など詳細はわかりませんが、実際にこれだけ株価が上がっていると、株価を上昇させるとの相場変動を図る目的での情報発表であった、と認められやすいのではないかと思います。

偽計を予防するためには

偽計は故意犯のみ

金融商品取引法違反になるかどうかの決め手は、偽計かどうかです。偽計には、開示や公表した内容が不注意により誤っていた場合は含みません。故意の場合に限ります。

とはいえ、そもそも間違った事実や情報を開示、公表しなければ、偽計かどうかは問題になりません。

開示の場合

上場会社の開示なら財務部門やIR担当部門が開示の内容をダブルチェック、トリプルチェックするなどして裏付けを確認することが、偽計を回避するために不可欠なことです。

また、取締役、執行役員などから圧力を掛けられて、偽計を開示することを迫れたときには、担当者は自分の身を守ることを最優先に考えて行動すべきでしょう。

記録に残す、社内外への通報、証券取引等監視委員会への通報など考えられる行動を取ってください。

開示以外の場合

偽計が問題になるのは、開示の場面に限定されません。上記クレスベール証券のプリンストン債のように、投資家向けの資料や口頭での説明なども偽計による処罰の対象です。

そのため、上場会社なら、資料を作成した後、総務部門などでのリーガルチェックや事実確認を経ることは不可欠です。

手続的・ガバナンス的には景品表示法の不実証広告や、消費者契約法・特商法の不実の告知にならないように、社内の管理部門が表現内容とその根拠資料を確認するのと同じです。

また、口頭での説明も処罰の対象となるので、言っていいこと/言ってはダメなことについては、社内でチェックリストなどを作成しておいた方がよいかもしれません。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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