6月1日からBtoCの取引に新しいルールが追加。守らない会社は契約を取り消されるおそれ。消費者契約法改正の4つのポイントを確認しよう(会社側の目線)。

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

ここ数日の寒暖差で喉がやられてしまいました。
やはり、年齢を重ねると、免疫が下がってしまいがちですね。

さて、年齢と言えば、超高齢化社会と成人年齢の引き下げです。

超高齢者や18歳以上の若者が、知識、経験、判断力の乏しさのせいで、契約のトラブルに巻きこまれることが増えています。

そのため、2022年5月にBtoCの取引のルールを定めた消費者契約法が改正されました。2023年6月1日から施行されます。

BtoCの取引をしている会社は注意しなければいけない事項が増えました。
気をつけなければいけない4つのポイントを抑えておきましょう。

消費者契約法改正のポイントは4つ

6月1日から施行される改正消費者契約法のポイントは4つあります。

  1. 勧誘(営業)の方法が不当であるという理由で契約を取り消される場面が追加された。
  2. 「会社の責任がない」と契約書に定めていても消費者の利益を不当に害するという理由で契約書の条項が無効とされる場面が追加された。
  3. 会社からの情報提供や説明が不十分であると判断される場面が増えた。
  4. 会社は消費者から解約料(キャンセル料)の算定根拠の説明を求められたら応じなければならなくなった。

この4点について、細かく見ていきます。

[ポイント1]勧誘方法が不当であるとの理由で契約を取り消される場面の追加

従来もこれからも、消費者を勧誘(営業)するときに、事実と違うことを告げたとき(不実の告知)や、消費者に不利になる事実を告げなかったとき(不利益事実の不告知)などは、契約が取り消されることになっています。

6月1日以降は、次の3つの勧誘方法も取り消されることになりました。

とはいえ、3つとも、ホワイトな営業をしている会社には無縁な勧誘方法だと思いますので、ポイント1は、あまり気にする必要がない改正点かもしれません。

  1. 勧誘することを告げずに退去困難な場所に連れて行き(同行し)、退去が困難であることを知りながら勧誘する場合

    例えば、旅行に誘って人里離れたところに連れて行った後、「この商品を買って下さい」などと勧誘する場合です。

  2. 威迫する言動を交えて相談の連絡を妨害して勧誘する場合

    例えば、勧誘したときに「家族と電話で相談してから決めたい」と拒まれたのに「いい歳なんだから自分で判断しろ」と電話をさせない場合です。

  3. 契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にした場合

    例えば、中古買取の店舗に指輪が持ち込まれたときに、査定のために指輪から宝石を外して元に戻せなくなったことを理由に、買取りの契約をした場合です。

なお、取消は、契約締結の時から5年以内、または消費者が追認できるとき(誤認や威迫を脱したとき)から1年以内ならできます。

[ポイント2]「会社の責任がない」と契約書に定めていても無効とされる場面が追加

従来もこれからも、契約書に「当社は一切責任を負いません」など責任全部を免除する条項や「当社に故意・重過失があるときにも責任を免除する」と定めている条項は、無効です。

「この契約はクーリングオフはできません」と定めても、その条項は無効です。たまに見かけますが、クーリングオフは法律上の制度なので、一民間企業が契約に定めても除外できません。

以上に加えて、6月1日以降は、会社が責任を負わない範囲(免責の範囲)が不明確な条項も無効になります。

例えば「当社は、法律上許される限り、1万円を限度として損害賠償責任を負います」と定めてあったとしましょう。

この場合、「法律上許される限り」の内容が不明確なので、条項が無効です(契約そのものではなく、その条項だけが無効です)。

法律上、BtoCの取引では、会社に故意・重過失があるときには、免責できません。つまり、会社が軽過失のときだけ免責が許されます。

そのため、6月1日以降は「当社は、軽過失の場合に限り、1万円を限度として損害賠償責任を負います」などと書いていなければ、その条項は無効です。

今のうちに契約書のひな型を見直して、不明確な内容だと思ったらひな型を作り直してください。

[ポイント3]会社からの情報提供や説明が不十分であると判断される場面が増えた

1.勧誘時の情報提供義務

従来も、会社が勧誘するときに、消費者の心身の状態、知識、経験に応じて契約の内容に必要な情報を提供する義務がありました。

6月1日以降は、会社が知ることができた消費者の心身の状態、知識、経験に加えて、年齢も総合的に考慮して、必要な情報を提供しなければならなくなりました(努力義務)。

従来とどこが違うのかというと、「知ることができた」「年齢」「総合的に考慮」が付け加わりました。

そのため、営業担当者が消費者の年齢を聞き出した上で、会話から心身の状態、知識、経験を探り、全体的に見て、理解不足だと思ったら、相応の情報を提供をしなければならなくなったのです。

努力義務ではありますが、説明義務、情報提供義務が不十分であるときには、その後に、義務違反を理由にした契約の解除、損害賠償請求が認められることがあります。
法律上の義務になったと思って対応することをオススメします。

私も会社側で何度か訴訟を経験して、説明、情報提供が十分だったかどうかを争ったことがあります。

十分に説明し情報を提供したという証拠(社内記録)が残っていないときには、会社は裁判所から厳しく判断されやすいです。

日頃から、

  • 説明や情報提供するための資料はわかりやすいものを作成する
  • 現場の営業担当者は十分に説明や情報提供した記録は残す

を心掛けて下さい。

2.解除に関する情報提供義務

6月1日以降、会社は、消費者から「どういう場合に解除(キャンセル)できるか教えて欲しい」と求められたときにも、必要な情報を提供しなければいけなくなりました(努力義務)。

最近では、スマホなどで占いなどのサブスク契約やマッチングアプリに加入し、その後に解約しようと思ってもサイトの構成が複雑で解約のやり方がわからないケースが増えています。

仮に消費者が電話やメールで解約方法を質問してきたときには、どこを見たら良いのかを答えなければならないのです。

サイトに「よくある質問と答え」のページがあるようなら、そこに解約の方法について明記して、解約フォームへのリンクを貼っておくのがベターだと思います。

3.適格消費者団体からの要請に応じた開示

6月1日以降は、適格消費者団体から

  1. 不当と思われる契約条項の開示
  2. 解約料(キャンセル料)の算定根拠の説明(営業秘密は除く)
  3. 差止請求を受けて行った措置の内容の説明

を要請されたときには、応じなければなりません(努力義務)。

ここまで行くことは稀なので、あまり気にする必要はありません。

[ポイント4]解約料(キャンセル料)の算定根拠の説明に応じる

6月1日以降は、消費者に解約料を請求するときに、消費者からその算定根拠を質問されたら、会社は概要を説明しなければらなくなりました(努力義務)。

例えば、結婚式場やホテルの予約を解除したときのキャンセル料や、野菜などの年間契約を解除したときのキャンセル料について、その算定根拠を求められたら、その概要を説明するということです。

あいまいな説明や、根拠のない不当な請求はできなくなった、ということです。

キャンセル料の金額の根拠を簡単に説明できるように準備しておいた方がよいでしょう。

BtoCの取引のルール全体は消費者庁のパンフレットがわかりやすい

従来からの分も含めた消費者契約法が定める取引のルール全体については、消費者庁が作成しているパンフレット(全8ページ)がわかりやすいです。
写真にリンクを貼っておきました。

今回の法改正にも対応していますので、BtoCの取引をしている会社はぜひ一度目を通してください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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