こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。
4月12日、花粉症への効果をほのめかした健康茶がステロイドを含有していることが国民生活センターから発表されました。
今回の健康茶を輸入販売していた会社は、大阪市都島区都島南通にある株式会社香塾という会社でした。
実は、この香塾という会社は大阪市都島区高倉町にも存在します。
こちらでも「ジャームティー・ブラック」という健康茶を輸入販売しています。
同一社名で、同一の商品名の健康茶を輸入販売しているため、非常に紛らわしい。しかも、ググるとこちらの会社が上に出てきます。
今回は、このケースを危機管理広報の観点から分析しようと思います。
国民生活センターが指摘した法的問題点
今回のステロイド含有事案で、国民生活センターは法律上3つの問題点があることを説明しています。
- 含有されていたステロイド(デキサメタゾン)は医薬品成分なので、この健康茶は「無承認無許可医薬品」となり薬機法上問題となる
- パッケージ及び説明書、輸入・販売元が運営する通信販売サイトには、医薬品的な効能効果や用法用量と受け取れる記載がみられ、薬機法上問題となるおそれがある
- 商品のパッケージには日本語での原材料表示がみられず、食品表示法上問題となるおそれがある
今回のnoteで取り上げるのは薬機法や食品表示法の問題ではありません。
詳しくは、国民生活センターの報道発表資料で確認してください。
危機管理広報の問題点
今回のnoteでは、このケースを題材にした危機管理広報を取り上げます。
同一社名で健康茶を輸入販売する別会社が存在する
ステロイドを含有する健康茶を輸入販売していた会社は、大阪市都島区都島南通にある株式会社香塾です(以下「都島南通の香塾」といいます)。
WEBサイトでは香塾本店と表記しています。
こちらで輸入販売していた健康茶の商品名は「ジャーム・ティー・ブラック」です。
大阪市都島区高倉町にも香塾という会社があります。法人組織かはわかりませんが、WEBサイトの特商法上の表記を見ると個人事業のようにも見えます(以下「高倉町の香塾」といいます)。
こちらも「ジャームティー・ブラック」という商品名の健康茶を輸入販売しています。
WEBサイトでは香塾やKoujukuと表記しています。
香塾でGoogle検索をすると、こちらが先に表示されます。
どちらも大阪市都島区にある香塾という同一の社名で、健康茶を輸入販売するという業態まで同じです。しかも、健康茶の商品名は「ジャームティー・ブラック」まで同じ(強いて言えば「ジャーム」と「ティー」の間に「・」の有無の違いはあります)。
そのため、高倉町の香塾にも、ニュースを見た人たちからの問い合わせがあったようです。高倉町の香塾にしてみれば、予期せぬ風評被害です。
高倉町の香塾の広報対応
高倉町の香塾は予期せぬ風評被害を受けて、すぐにWEBサイトのトップページに「お知らせ」を掲載しています。
消費者の不安を解消するために・・
高倉町の香塾が広報した内容の要点は4つあります。
- 高倉町の香塾の商品は、都島南通の株式会社香塾の商品とは別物であること
- 都島南通の香塾は銀色のパッケージであること
- 高倉町の香塾は黒いパッケージで、香塾堂の商品を仕入れて販売していること
- 高倉町の香塾の商品も検査中であり検査には3週間ほどかかること、検査結果はあらためて公表するとの予告
高倉町の香塾からジャームティー・ブラックを購入したことがある消費者は、ニュースを見てどう感じるでしょう?
「ジャームティー・ブラックが報道されていたけれど、高倉町の香塾がニュースになっているのか?」
「高倉町の香塾から購入した健康茶を飲んでも大丈夫なのか?健康被害がないのか?」
「今後も高倉町の香塾から健康茶を購入しようと思っている。都島南通の香塾と同じ健康茶なのか?」
そんな不安に陥っていると思います。
この状況では、消費者の不安を解消することを最優先に取り組むことが求められます。そうなれば、必然的に、店舗への信頼維持にも繋がります。
上記1〜3は、この不安解消に役立つ内容と言ってよいでしょう。
さらに、4で高倉町の香塾で扱っている健康茶についても検査をしていることをお知らせしたことも信頼維持にプラスとなる材料です。
検査をしないで大丈夫と言い張っていても、消費者は「本当に?」と疑心暗鬼になるからです。
隠すつもりがない姿勢を見せることもまた店舗への信頼維持に繋がります。
惜しいのは、高倉町の香塾は、ニュースになっている都島南通の香塾とは別会社であるという紛らわしい部分への言及がわかりにくい点です。
冒頭で「別会社です」と宣言してもよかったように思います。
都島南通の香塾の広報対応
都島南通の香塾も、国民生活センターの発表を受けて、すぐにWEBサイトにリリース文を掲載しています。
まず、冒頭でお詫びした後、事実関係を説明しました。
次いで、混入経路を確認して、その結果をあらためて報告することを宣言しています。
メインとなっているのは、消費者へのメッセージです。
長期・大量飲用時の副作用による健康上の問題、継続的に飲用しているのに急に止めると身体への影響が出るおそれがあることを伝えています。
内容的には十分です。
ただ、箇条書きにしたら、もっとわかりやすかったのではないでしょうか。
さらに、国民生活センターからの指摘を受けた対応を説明してます。
効果効能や用法用量について薬機法違反となる「おそれがある」との指摘に対しては、今後の記載を改めると宣言しています。
しかし、その一方で、販売を中止し、商品を回収するとも表明しています。
販売を中止するなら記載を改める必要がないので、ここの一文が矛盾しているように感じました。
販売を一時停止するだけなのか、それとも完全に中止するのか、会社の方針が決まっていないだけなのかもしれません。
とはいえ、国民生活センターから「無承認無許可医薬品となり薬機法上問題となる」とまで言い切られています。
厚労省の承認許可を得ない限りは販売中止にするしか選択肢はありません。
まとめ
自社と類似した名前の別の会社や、自社と類似した商品やサービスを取り扱っている別の会社が、不正・不祥事で報じられることはよくあります。
この場合に、予期せぬ風評被害は避けたいはずです。
取引先や消費者、ときには投資家や株主から誤解した問い合わせがあったときには、別会社であることや別の商品・サービスであることなどをアピールする危機管理広報が必要であるということを、広報担当者は抑えておいてください。