広島マツダの従業員が身体障害者のマネをした動画をSNSに投稿して炎上。会社の謝罪文がピント外れで、危機管理広報として失敗。

こんにちは。
弁護士の浅見隆行です。

従業員が障害者を揶揄しているかのような動画をSNSに投稿し炎上したことを受けて、広島マツダは4月30日に公式サイトに謝罪のリリースを掲載しました。

しかし、その謝罪のリリースの内容が不適当だったので、火に油を注ぐ結果になり、SNS上では余計に炎上が大きくなりました。

危機管理広報の失敗といってもいいでしょう。

謝罪のリリースが火に油を注ぐことになった理由

広島マツダの謝罪のリリースが火に油を注ぐことになった理由は、

  1. 「決して障害者を揶揄するつもりはなかったと申しておりますが」などと、投稿した従業員らが反省していないと読める内容が記載されていたこと
  2. 謝罪の内容がピント外れで、広島マツダが問題の本質を理解していないように見えること

の2点ではないかと考えられます。

謝罪文のリリースの鉄則

広島マツダの謝罪のリリースの文書構成

広島マツダのリリースは、謝罪の言葉から始まっています。

しかし、次の段落では「決して障害者を揶揄するつもりはなかったと申しておりますが」と従業員たちの言い分を書いてます。

これがすべてを台無しにしています。

この一文を入れた目的はなんだったのでしょう?
「揶揄したつもりはなかったから許してください。勘弁してください」というつもりだったのでしょうか。
謝罪ではなく従業員たちの開き直りや言い訳を書いたようにしか思えません。

信頼を回復することが目的なのに・・

謝罪のリリースは何のために作成するのかというと、信頼を回復するためです。

しかし、「許してください。勘弁してください」のお涙頂戴の態度や、開き直りや言い訳では信頼は回復しません。

信頼を回復するのに値するだけの内容と質を伴った対応をして、初めて信頼を回復するのです。

事実関係に争いがないなら、謝罪に徹するのが原則です。

問題の本質を理解していない

謝罪文の冒頭からピント外れ

広島マツダのリリースは、信頼を回復するのに値するだけの内容も質も伴っていません。

冒頭の段落は

ご覧になられた皆様に大変不快な思いをさせてしまったこと、またお客様ならびに関係各位には、ご心配ご迷惑をおかけしておりますこと、深くお詫び申し上げます。

と書いてあります。

しかし、SNSが炎上したのは、動画を見た人が不快な思いをしたからではありません。
また、謝罪すべき相手は、障害者です。広島マツダのお客さまや関係者ではありません。

謝罪しなければならない理由と謝罪する相手の両方が間違っています。

炎上した本当の理由と、謝罪すべき相手

障害者を揶揄したように見える動画が炎上した本当の理由は、障害者への配慮に欠けているからです。

今っぽく言えば、障害者という多様性への配慮が欠けている、ダイバーシティへの意識が低すぎることが、投稿を見た人たちの怒りや非難に繋がり、炎上したのです。

謝罪すべき相手は、揶揄した相手である障害者です。
世の中の人たちは動画を見たかもしれませんが、広島マツダを非難したのは不快だからというよりも、障害者への代弁者として非難したのです。

この時点で、広島マツダの謝罪は内容も相手もピントがズレています。

どのように謝罪すべきだったか

炎上した本当の理由に応える内容を記載する

炎上した本当の理由から考えれば、

  • 障害者への配慮が欠けていたこと
  • ダイバーシティの意識が低かったこと(社内に浸透していなかったこと)
  • 広島マツダはダイバーシティをどう考えているかという企業姿勢

などを、障害者向けに記載すべきでした。

広島マツダのリリース文

ところが、広島マツダのリリースは、そうした炎上した本当の理由については言及はありませんでした。

書かれていたのは、

「会社としては軽率な行動に対して厳重注意を行い、当該従業員も深く反省しております」
「弊社は、本件を真摯に受け止め、広島マツダおよび関係グループ会社も含め、本件の内容を周知するとともに、再発防止に向けた取り組みを行ってまいります。

という、どの事例にも汎用で使えるような、一般的・抽象的な表現しか書いてありませんでした。

これを見ても、読んだ人は「広島マツダは事の本質を理解していないだろう」との感想しか抱きません。
再発を防止することにも期待できないのではないでしょうか。

こうやって書くべきだった

では、どのように書くべきだったかというと、炎上した本当の理由を踏まえると、

  • 「障害者を揶揄したような動画を投稿したことは、障害者への配慮に欠けていました」
  • 「広島マツダとしては、多様性への配慮の観点から、障害者を揶揄したような言動をすることは決して許されることではないと考えています」
  • 「広島マツダとしては、役員・従業員に多様性への配慮という考えを浸透させられていなかったことも問題だと考えている。役員・従業員にダイバーシティに関する研修・教育を行う」

などというフレーズが考えられます。

読んだ人の受け止め方が全然違うと思います。

まとめ

不正や不祥事が起きると、いろんな企業が謝罪のリリースを出すのが当たり前の時代になってきました。

各社のリリースの冒頭の謝罪の表現を見ると、それだけで、その会社が不正・不祥事への危機管理がうまく行くかどうかが、ある程度推測ができます。

本質を理解してない謝罪の言葉や、ピントがズレている謝罪の言葉を使っている会社は、その後の危機管理でもピント外れの対応しかできないので、危機管理に失敗することが多いです。

今後、不正や不祥事が起きたときに、そのリリース文を読んで、冒頭に注目してみてください。

また、従業員がSNSを私的に利用する場合の規制については、こちらに書きました。

 

 

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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