こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
ニチレイは2025年4月15日、子会社であるニチレイフーズの中国子会社日冷食品貿易(上海)有限公司にて、董事長兼総経理の地位にあったニチレイフーズの元従業員が無断で会社を設立し、元従業員が機関決定等の適正な内部手続を経ずに取引先の資金負担、債務保証等の合意を行う等の不正行為をしていた件について、再発防止策とニチレイとニチレイフーズの役職員の処分を公表しました。
不正行為の概要とその調査報告書は、3月25日に公表されています。
再発防止策は、海外子会社に対するグループガバナンスを意識したものとなっていて参考になります。
また、調査報告書は第三者委員会ではなく、ニチレイの社外取締役が委員長となり(当初はニチレイ代表取締役社長が委員長だったものの、事案の性質に照らして社外取締役が委員長に変わりました)、社外監査役、常勤監査役らに外部の弁護士を交えて作成されました。
その意味で自浄作用が機能した例といってもよいでしょう。
海外子会社に対するグループガバナンスを意識した再発防止策
ニチレイは、調査委員会が指摘した
- 中国子会社幹部の任用基準が不明確
- 中国子会社におけるガバナンスの欠陥
- 中国子会社任せのマネジメント
など6つの原因に応じて、再発防止策を策定しています(以下、一部引用)。
(1)海外子会社幹部の任用基準の明確化
海外子会社幹部の選任基準を見直し、語学や当地のビジネスの経験・知見に限らず、会社に対するロイヤリティやコンプライアンス意識についても評価項目に入れるなど、客観的かつ透明性のある選任基準を策定します。
また、現地経営者への過度な権限集中を防ぎ、不正の機会を根絶するため、就任期間については原則5年以内とし、計画的な人財育成によりローテーションを実施します。
引用したのは特に注目したい(1)だけですが、それ以外にも、現地子会社の取締役会構成メンバーや開催方法・頻度の見直し、持株会社直轄の地域統括会社を各地域に設置しての海外子会社のガバナンス体制やマネジメント状況を適時にモニタリング、海外子会社の内部通報制度の環境整備(持株会社ニチレイの内部通報制度の導入地域の拡大)なども再発防止策として挙げられています。
(1)の「海外子会社幹部の任用基準の明確化」として「語学や当地のビジネスの経験・知見に限らず、会社に対するロイヤリティやコンプライアンス意識についても評価項目に入れる」を考慮したことは、要するに、仕事ができてもニチレイに対する忠誠心がない、コンプライアンス意識が欠けている者を子会社幹部として権限を与えると最終的にニチレイに損失を与える行動をしかねないことを意味します。
結局は、仕事ができるだけではなく、信頼されるだけの人間性・人間力が大事ということでもあります。
どのようにしてロイヤリティの有無を判断するのかはわかりませんが、例えば、転職が多い者は一つの会社へのこだわりがないので忠誠心がないと判断するのかもしれません(あくまでも想像)。
また、これは、海外子会社以外に、持株会社や事業会社の役員・幹部にはすべて当てはまるように思います。
自浄作用が機能した社外役員中心の調査
ニチレイの調査は、第三者委員会ではなく社外取締役が委員長になり、社外監査役、常勤監査役、代表取締役社長、外部の弁護士によって構成されるメンバーによって調査されました。
最近は、何の目的意識もないままに第三者委員会による調査を行う会社が増えている印象を受けます。
しかし、本来は、取締役・取締役会によるコーポレートガバナンス、社外取締役、社外監査役といった社外役員による役員相互のガバナンスによる自浄作用が機能しているなら、社内調査だけでよく、あえて第三者委員会による必要はありません。
証券取引所の「上場会社における企業不祥事対応のプリンシプル」にも
内部統制の有効性や経営陣の信頼性に相当の疑義が生じている場合、当該企業の企業価
値の毀損度合いが大きい場合、複雑な事案あるいは社会的影響が重大な事案である場合な
どには、調査の客観性・中立性・専門性を確保するため、第三者委員会の設置が有力な選
択肢となる。そのような趣旨から、第三者委員会を設置する際には、委員の選定プロセス
を含め、その独立性・中立性・専門性を確保するために、十分な配慮を行う。
と書かれているように、第三者委員会の設置が「選択肢」となるのは
- 内部統制の有効性や経営陣の信頼性に相当の疑義が生じている場合
- 当該企業の企業価値の毀損度合いが大きい場合
- 複雑な事案あるいは社会的影響が重大な事案である場合など
調査の客観性・中立性・専門性を確保する必要がある場合です。
社外役員を中心とした自浄作用が機能しているなら、社内調査でよいのです。
果たして、ニチレイの場合、社外取締役が委員長となり、しかも、当初はニチレイ代表取締役社長が委員長だったものの事案の性質に照らして委員長を社外取締役に変えるほど、中立性を意識して対応していました。
代表取締役社長は、持株会社から事業会社、海外子会社に対するグループガバナンスの責任を問われかねない立場にいるため、自らが委員長として調査をしても「手心を加えた」と見られる可能性があるため、調査の中立性を確保するために委員長を変わった、と理解することができます。
自浄作用を機能するよう徹底していたともいえます。