リンナイが経年劣化故障による発火のおそれを理由に、浴室暖房乾燥機の使用中止と無償点検・修理へ。過去の他社事例を教訓にした適時・適切な危機管理と工夫された情報発信。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

リンナイは2025年4月15日、「製造から 10 年以上経過した浴室暖房乾燥機において、経年劣化故障によりごくまれに発火に至るおそれが判明した」ことを理由に、2003年8月~2020年8月に製造した浴室暖房乾燥機合計372,398台の使用中止と無償点検・修理を行うことを公表しました。

リンナイの今回の動きは、危機管理、広報のいずれの点でも非常に見習うべき点があります。

リンナイの適時・適切な危機管理

報道によると、リンナイの浴室暖房乾燥機からは「2025年までに家屋の全焼が1件、天井などの焼損が6件発生した。死亡した人はおらず、軽傷者が1人出た。」とのことです。

今回の無償点検・修理は、これらの火災事故がきっかけになったと推察できます。

法律論だけでいえば、「製造から10年以上が経過」した浴室暖房乾燥機が「経年劣化故障」したとしても、メーカーであるリンナイは製造物責任を負いません。

しかし、リンナイは、法的責任はないにもかかわらず、あえて、「製造から10年以上が経過」で「経年劣化故障」した浴室暖房乾燥機を無償点検・修理することを決断しました。

こうした動きからは、リンナイが、浴室暖房乾燥機を利用している家庭の安全の確保を最優先に考えている企業姿勢が伝わってきます。

リンナイの企業使命観は「リンナイは、健全で心地よい暮らし方を創造します」とあり、それを自社サイトのトップページにも掲げるだけでなく、行動規範にも次の内容を定めて、安全に言及しています。

2.3. 安全な利用方法の周知

私達は、お客様が製品・サービスを安全に利用できるように、製品・サービスの正しい利用方法を分かりやすく伝えるとともに、利用に伴う危険性については、視覚に訴える表現方法を用いて、注意、警告します。

2.6. 事故発生時の対応

私達は、万一、製品・サービスによる重大な事故やトラブルが発生した場合は、直ちに経営トップに報告するとともに、お客様に対しその情報を速やかに伝え、被害拡大の防止とトラブルの再発防止について迅速な措置をとります。

一連の行動は、これらの企業使命観や行動規範を具現化したものと理解することができます。

思い出されるパロマガスの湯沸かし器事故(東京地判2010年5月11日)

リンナイの対応を見て、思い出したのが、2005年11月、パロマ工業製湯沸かし器による一酸化炭素(CO)中毒が起き2人が死傷した事故が発生した際のパロマ工業の対応です。

一酸化炭素中毒事故の発生原因は、製品そのものの欠陥ではなく修理会社が不正改造したことにあったのですが、1985年から2001年まで、改造による中毒事故で14人が死亡した事実を認識しながら、製品の自主回収などを怠っていたことを理由に、パロマ工業の社長(当時)は業務上過失傷害罪により禁錮1年6月、執行猶予3年、品質管理部長(当時)は禁錮1年、執行猶予3年に処せられました。

裁判所は、社長と品質管理部長の刑事責任について以下のように判断しています。

パロマ両社としては,パロマが販売したすべての7機種を対象として,短絡の危険性についての注意喚起を徹底し,把握可能な上記7機種を点検して,短絡されている機器を回収する措置を行うべきであり,パロマ両社において前記地位にあった被告人甲山(※社長のこと),及びパロマ工業において前記地位にあった被告人乙川(※品質管理部長のこと)は,この措置をとるべき刑法上の注意義務を負う立場にあった。

(中略)

平成13年1月5日ころには,被告人甲山においては,自らないしは被告人乙川等のパロマ両社の関係部署の担当者らに指示するなどして,被告人乙川においては,被告人甲山に進言して指示を仰ぎつつ,自らないしはパロマ両社の関係部署の担当者らに指示するなどして,〔1〕マスメディアを利用した広報等により,パロマ工業が製造し,パロマが販売した7機種の使用者等に対し,上記7機種において短絡がなされている可能性があり,その場合,電源が入っていないときは強制排気装置が作動しないので,一酸化炭素中毒事故を起こす危険性があることなどについて注意喚起を徹底し,かつ,〔2〕パロマ両社において自ら,又はパロマサービスショップをして,物理的に把握することが可能であったすべての上記7機種を点検して短絡の有無を確認し,短絡がなされた機器を回収するという安全対策を講ずべき業務上の注意義務があった

この裁判例は、危機の危険性を会社が認識したときには、

  • 広報等により消費者に対して危険性を注意喚起を徹底すること
  • 点検・回収する業務上の注意義務を負うこと
  • 会社のトップである社長や品質管理の責任者は、その指示をする義務を負うこと

を認め、これらができていなかった社長や品質管理部長の責任を認めたものです。

今回のリンナイの対応を見ると、

  • 経年劣化故障による火災事故が発生していることを認識して
  • 開示、自社サイトでの公表などにより消費者に危険性を注意喚起し、使用中止を求め、
  • 無償点検・修理を実施しています。

パロマ工業の裁判例を意識した危機管理と言えます。

リンナイの危機管理広報

複数の種類の情報発信

リンナイは、消費者に対して浴室暖房乾燥機の使用中止と無償点検・修理を公表するに当たっては、

などの工夫を施しています。

「開示」と「ニュースリリース」とで情報の内容に差を設けている

自社サイトのトップページに「重要なお知らせ」を掲示し、そこからの専用のページにリンクを貼ることは、最近ではどこも行っています。

リンナイの特色的だったのは、「開示」とは別に「ニュースリリース」を発信したことです。

多くの上場会社では「開示」だけを行い、「ニュースリリース」を別に発信することはほとんどありません。

しかし、開示は株主・投資家に向けて投資に影響する事象が発生したことを知らせるためのものです。

これに対し、ニュースリリースはメディアでニュースとしてあえて掲載されることを目的とするものです。

リンナイは、ニュースであえて取り上げてもらって、一般消費者に浴室暖房乾燥機の使用中止と無償点検・修理を実施しているとの情報を届けようと狙っていたことがわかります。

そのために、開示文書とニュースリリースとでは若干表現や内容を変えています。

開示では、「お客様、株主・投資家の皆様をはじめとするステークホルダーの皆様には、大変ご迷惑をおかけしますことを心からお詫び申し上げます。」と、お客様以外に株主・投資家向けにも謝罪し、かつ、本件にかかる費用の業績への影響という株主・投資家が知りたがっている情報を掲載しています。

他方で、ニュースリリースでは、お客さまへの謝罪のほかは、対象製品の特定方法、専用お問い合わせ窓口の案内のほか、インターネット受付・電話受付の開始日、「当社ならびに当社製品の修理サービス代行店は、お客さまからのお申し出がない限り、点検・修理を行いません。また、点検・修理を実施する際は、お客さまと予めお約束した日時に、当社の身分証を携帯した担当者が訪問します。突然の訪問や電話は、点検詐欺の可能性がありますのでご注意ください。」など、お客さまのかゆいところに手が届く情報を満遍なく載せています。

こうした差を設けることができるのは、誰に向けての文書なのかを意識できているからです。

危機管理広報への理解が深い会社だな、と感じました。

他社も参考になるのではないでしょうか。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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