NECは、従業員が就職活動中の学生にわいせつ行為をし逮捕されたことを受け、「採用活動指針」を見直し。企業に必要な就活ハラスメント対策。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

日本電気(NEC)は2025年1月15日、従業員が就職活動中の学生にわいせつ行為をして逮捕されたことを明らかにし、「採用活動方針」の見直しを公表しました。

不同意性交の被疑事実で1月8日に逮捕されたと報じられていたケースです。

「就活ハラスメント」対策の現状

不同意性交まで行ってしまえば犯罪行為なので問題外ですが、犯罪行為にまで至らずとも就職活動中の学生に対してハラスメントをするケースがここのところ問題視されるようになりました。

現時点では就活ハラスメントを直接に禁じる法律はまだありませんが、厚労省はパワハラを禁じる労働政策総合推進法やセクハラを禁じる男女雇用機会均等法の各指針を理由に、企業に就活ハラスメント対策を講じることを求めています。

また、SNSの普及もあり、学生側も就活ハラスメントに対する意識が高まっています。

以下のスクリーンショットのように、企業向け、学生向けに各専用サイトを設置しています(画像にリンクを貼ってあります)。

2025年中に企業に就活ハラスメント対策(雇用管理上の措置)を講じることを義務づける法改正の動きも報じられています。

就活ハラスメント対策を講じる企業の動向

就活ハラスメント対策を講じる必要性

法改正がされずとも、企業は就活ハラスメントが行われないよう対策を講じることが必要です。

就活ハラスメントが行われれば優秀な学生たちはその企業への就職活動を敬遠するようになるため、企業の持続的な成長が期待できなくなります。

また、就活ハラスメントが行われるような会社には、潜在的・将来的な顧客である学生たちからの信頼・信用を失います。学生たちを通じて、家族・友人などその周辺や就活用の情報交換サイトをにも悪評が広がるかもしれません。

就活ハラスメント対策の実際

就活ハラスメントへの対策を重視している企業では、マニュアルを作成する、リクルーターや面接官に注意喚起するなどの対策を既に講じているところも少なくありません(厚労省「就活ハラスメント防止対策 企業事例集」)。

就活ハラスメントというと、面接時やリクルーターによる女子学生に対するセクハラなどを思い浮かべるかもしれません。

しかし、厚労省の上記企業向けサイトや企業事例集でも紹介されているとおり、各企業はより幅広く取り組んでいます。

その内容は、

  1. 面接時のハラスメント対策
  2. 学生と接するリクルーターの行動
  3. 就職活動中の学生の個人情報の取扱い

の3点に分類できます(厚労省の表現をよりわかりやすく言い換えました)。

詳しくは厚労省のサイトと企業事例集を見てほしいのですが、以下では、それらを見た上で就活ハラスメント対策として「足りない」と感じた部分を補足します。

面接時のハラスメント対策

就職活動中の本人の適性と能力だけで選考することを求め、それ以外の本人ではどうにもならない事情を理由に「就職差別」が行われないよう、厚労省は「公正な採用選考を目指して」とする特設サイトを開設し注意喚起しています。

企業事例集で紹介されている各社も、特設サイトに記載されているような、「就職差別」に繋がる事項を質問したり、不要な健康診断を実施しないことをハラスメント対策として掲げてしています。

しかし、「公正な採用選考」を意識した「就職差別」の防止だけでは、就活ハラスメント対策としては不十分ではないかと思います。

面接の場面に関してSNSで頻繁に話題になるのが「圧迫面接」です。

圧迫面接には就職活動中の学生のストレス耐性をチェックするという目的があるかもしれませんが、一歩間違えれば、採用する側という優越的な立場を利用したパワーハラスメントになります。

そのため、「圧迫面接」を実施しないこと、どのような面接がパワーハラスメントになってしまうのかの注意喚起も、就活ハラスメント対策としては必要不可欠だと思います。

また、就職活動中の学生と企業の接点は面接以外にも、インターンシップ、企業説明会、就活セミナー、リクルーターとの接触などがあります。

リクルーターとの接触については 2 の項目で取り上げているかもしれませんが、インターンシップ、企業説明会、就活セミナー時のハラスメントについては 1 の面接時のハラスメントと同様に企業は対策を講じるべきだと思います。

学生と接するリクルーターの行動

リクルーターに選ばれる従業員は就職活動中の学生とは年齢が近い若手社員であることがほとんどで、それ故に、リクルーターが就職活動中の学生を性の対象として見てしまい、セクシャルハラスメントを起こしがちです。

NECのケースに限らず、リクルーターが就職活動中の学生に対してセクシャルハラスメントやわいせつ行為をしたケースは過去にも多く報じられています。

そうだとすると、リクルーターの行動を制限するよりも前に、

  • 就職活動は、会社と学生との雇用契約の締結という取引に向けた動きであること
  • リクルーターは会社の代表として学生と接しているのであって、リクルーター個人対学生個人で接しているのではないこと

を認識・自覚させることが何よりも重要です。

そのためにはマニュアルを配布して終わりにするだけでなく、リクルーターを決めた後に人事部門から意識を高めるための社内説明会を短時間でも構わないので実施すべきでしょう。

その上で、企業事例集で紹介されているような、リクルーターと学生が1対1で社外で会うことを避けるなどリクルーターの様々な行動規制・制限に取り組んでいけばよいと思います。

就職活動中の学生の個人情報

就職活動中の学生はエントリーシート、履歴書の提出を通じて、多くの個人情報を企業に渡します。

就職活動中の学生の個人情報を保護するためには、エントリーシート、履歴書に記載されている個人情報のうち必要のない情報を、人事部門から面接の担当者やリクルーターに渡さないことが必要です。

また、人事部門が保管するエントリーシートに入力されたデータや履歴書の内容を社内の共有サーバに保存した際に、他の部署から見ることができないようにセキュリティを施すことも必要です。

これらは就活ハラスメント対策というよりは個人情報保護の観点からの一般的な取り組みと同じです。

ただ、就活ハラスメント対策としてもう1つ忘れてはいけないのは、面接した学生や採用内定を出した学生の個人情報の取扱いです。

面接後に「今日こんな子が面接に来ていた」と担当者が感想を漏らしたり、採用内定を出した学生を社内に事前に紹介する際に「こういう子に内定を出した」「来年はこういう子が入ってくる」などの会話によって、必要のない個人情報まで社内に広がってしまうことがありがちです。

もちろん、採用内定を出した学生について、特に就労開始日が近づいたり配属が決まったときには、ある程度の人となりを紹介するために事前に情報で共有することは必要ですが、その際にもどこまで話していいのかは慎重になったほうがよいでしょう。

また、社内報で新入社員を写真付きで紹介することもあるかもしれません。

その場合にも、新入社員の個人情報をどこまで社内報に掲載するかは個人情報保護の観点から慎重に対応してください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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