こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
ダルトン インベストメンツの関連会社ライジング サン マネジメントが2025年1月14日、中居正広の騒動に関連して独立した第三者委員会の設置を要求する書簡をフジメディアHDの取締役会に送付しました。
ダルトンはフジメディアHDの発行済み株式総数の約6%を保有する第2位の株主で、ライジングサンと併せると約7%を保有しています。
独立した第三者委員会設置を求めた理由
コーポレートガバナンスの重大な欠陥の指摘
ライジングサンが送付した書簡は、こちらです。
書簡によると、ライジングサンは中居正広の性的トラブルの内容についての調査を求めているわけではありません。
Sadly, our view of the recent series of events at your Company relating to the uproar created by Mr. Masahiro Nakai is that it reflects not only a problem in the entertainment industry generally, but, specifically, it exposes serious flaws in your corporate governance.
(Google翻訳)
残念ながら、中居正広氏による騒動に関連して貴社で最近起きた⼀連の出来事は、エンターテイメント業界全体の問題を反映しているだけでなく、特に貴社のコーポレートガバナンスに重⼤な欠陥があることを露呈しています。
とあるように、フジテレビで起きている一連のできごとが、フジメディアHDのコーポレートガバナンスに重大な欠陥があると指摘しているのです。
「事実の報告とそれに伴う対応の欠陥」との指摘
書簡には
The lack of consistency and, importantly, transparency in both reporting the facts and the subsequent unforgiveable shortcomings in your response merit serious condemnation that serves not only to undermine viewer trust, but also leads directly to erode shareholder value.
(Google翻訳)
事実の報告とそれに伴う対応の許し難い欠陥の両⽅において⼀貫性と透明性が欠如していることは、視聴者の信頼を損なうだけでなく、株主価値を直接損なうことにもつながる深刻な非難に値します
と記載されています。
” reporting the facts and the subsequent unforgiveable shortcomings in your response (事実の報告とそれに伴う対応の許し難い欠陥)” との記載から察するに、ダルトン(ライジングサン)は、
- 2023年6月に、中居正広、被害者X、フジテレビの編成幹部A氏を交えて会食を企画した
- トラブル発生後にXがフジテレビ幹部らに被害状況とAの関与を報告したけれど、「握りつぶされた」
- X以外にも被害者がいる
などの報道内容のうち 1 の事実はもとより、特に2の事実を重視して、フジテレビは性的トラブルを組織的を隠した、あるいは性的トラブルを許容していたことになるので、そんな対応をした企業組織だとしたらコーポレートガバナンスが機能していない、と判断したのでしょう。
実際のところ、フジテレビは2024年12月27日、公式サイトに 以下のとおり1 の事実を否定する声明のみを掲載し、2 の事実については何ら言及せず、それどころか「誹謗中傷」「名誉毀損」などとしてこれ以上の批判・非難する声を牽制しようとしています。
こうしたフジテレビの事実報告の姿勢と対応を、ダルトン(ライジングサン)は ” reporting the facts and the subsequent unforgiveable shortcomings in your response (事実の報告とそれに伴う対応の許し難い欠陥)” と判断し、コーポレートガバナンスに重大な欠陥があると指摘したのだと思われます。
※追記
2025年1月28日までに週刊文春は、フジテレビ編成幹部A氏が被害女性X子を会食に誘ったとの記事を修正しました。
しかし、上記のとおり、これでフジテレビのガバナンスが機能していたのかについての議論が終わるわけではありません。
本来あるべきコーポレートガバナンスと株主ガバナンス
フジテレビ幹部のガバナンスにおける役割
報道されている「幹部」がどのポジションなのかはわかりませんが、中間管理職だと思われます。
ガバナンスは、「取締役(会)」が、執行役員・従業員をどう統制するかといった上下方向のガバナンスと、他の取締役を相互にどう監視するかといった水平方向のガバナンスに整理できます。
理想的な上下方向のガバナンスは、取締役(会)が末端の従業員一人ひとりまで統制できることですが、さすがに非現実的です。
そこで、取締役(会)にかわって取締役側に立って現場を統制するのが、コーポレートガバナンスにおける管理職の役割です。
従業員と取締役(会)との繋ぎ役と言って良いでしょう。
そう理解すれば、管理職のガバナンスは、従業員であるXから性的トラブルの事実を報告されたときには、その事実が真実ならば会社の信頼・存続に関わるリスクである、会社の企業価値の低下を招くリスクであると認識し、担当取締役あるいは取締役会に報告し、全社的な危機管理の判断を仰がなければならなかったのです。
報道のとおり「握りつぶす」など論外です。
また、取締役会は、管理職である幹部に対して、日頃からコーポレートガバナンスと企業価値との関係、コーポレートガバナンスや危機管理についての意識を持たせるように教育をしておかなければならなかったのです。
それができていなかったのなら、株主から「コーポレートガバナンスに重大な欠陥がある」と指摘されても当然です。
株主がそうした欠陥を指摘をするのは株主からのガバナンス(株主ガバナンス)が機能しているといえます。
子会社・グループ会社の危機管理;福岡魚市場事件判決
また、今回問題が起きたのは事業会社のフジテレビであり、持株会社であるフジメディアHDの子会社です。
そうだとすれば、そもそも、フジメディアHDが持株会社の立場で、グループガバナンスの観点から、事業会社であるフジテレビに対して具体的な調査の指示をしなければなりません。
ここで参考にしたいのが、福岡魚市場事件判決です(最判2014年1月30日)。
事案の概要は以下のとおりです。
- 完全子会社フナショクは、親会社である福岡魚市場と「グルグル回し取引」を行った結果、不良在庫を抱えた。
- 親会社の代表取締役らは2002年11月に公認会計士からの指摘を受けるなどしたため、専務取締役を代表とする調査委員会を立ち上げ、ヒアリング調査を行い、子会社から報告書を提出させた。
- 子会社の経営状態を回復するために親会社の取締役らは融資したが、子会社は経営破綻し、親会社には18億8000万円の損失が発生した。
- 親会社の株主は、取締役らに責任を求める代表訴訟を提起した。
- 親会社の代表取締役、専務取締役、常務取締役は、子会社の非常勤取締役、監査役を兼任していた。
判例は、2に関連して、
遅くとも公認会計士からの指摘を受けた平成14年(2002年)11月18日の時点で、親会社の取締役として、親会社及び子会社の在庫の増加の原因を解明すべく、従前のような一般的な指示をするだけでなく、自ら、あるいは、親会社の取締役会を通じ、さらには、子会社の取締役等に働きかけるなどして、個別の契約書面等の確認、在庫の検品や担当者からの聴取り等のより具体的かつ詳細な調査をし、又はこれを命ずべき義務があった。
との具体的かつ詳細な調査義務または調査命令義務があることを認めました。
「一般的な指示」というのは、「なにがあったか調べて報告しろ」というレベルの漠然とした指示です。
しかし、判例は、「一般的な指示」では足らず、親会社の取締役・取締役会が自分たちで子会社を調査するか、子会社の取締役に対して、「最低でもこの調査とこの調査を行うように」と具体的かつ詳細な調査メニューを示して命令すべきだったと言っているのです。
この福岡魚市場事件判決が判示した内容は、今回のフジメディアHDとフジテレビとの関係においても当てはまります。
フジメディアHDはフジテレビに対して何か具体的かつ詳細な調査を行うか、調査メニューを示して命令しなければならない、ということです。
フジメディアHDがこうしたグループガバナンスができていないことを株主がガバナンスの欠陥であると指摘することも、株主によるガバナンス(株主ガバナンス)が機能していると言えるでしょう。
コーポレートガバナンス・コードでも「株主との対話」として、株主によるガバナンスに期待しています。
フジメディアHDは株主からの指摘を真摯に受け止めて次の判断をすべきではないでしょうか。