クシムの取締役が、継続的な情報漏えい等した疑いを理由に辞任勧告決議され、かつ、ネットへの投稿により経営統合が破談へ。取締役による「重要事実」の情報管理と責任の大きさ。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

今回は、インサイダー情報となる「重要事実」の情報管理について、です。

取締役による重要事実の伝達のおそれ

2024年11月25日、クシムは、株主との意見交換会で、取締役会の承諾なしに、取締役が株主の前で未公表の会社情報(重要事実)に言及し、また、意見交換会の前から重要事実が共有されていることを示唆する株主の発言をきっかけに、当該取締役からヒアリング等を行った結果、情報漏洩が継続的になされていた可能性が非常に高く、また、不適切行為に関与している疑いもあるとを理由に、当該取締役に対する辞任勧告を決議し、12月9日には社内調査委員会を設置しました。

このケースの特異な部分は、「株主との意見交換会で、取締役会の承諾なしに、取締役が株主の前で未公表の会社情報(重要事実)に言及し、また、意見交換会の前から重要事実が共有されていることを示唆する株主の発言をきっかけに、当該取締役からヒアリング等を行った」点です。

最近は、開かれた株主総会への流れや、コーポレートガバナンス・コードで「株主との対話」が強調されている影響もあり、取締役らが、社内の情報を投資家・株主に対して説明することに前向きです。

その姿勢は構わないですし、むしろ望ましいと言えるでしょう。かつての総会屋が跳梁跋扈していたので、足元をすくわれないようにするために最低限のことしか説明しない株主総会の時代とは違います。

しかし、情報を積極的に表に出し、説明を尽くすことにだけ意識が向いてしまい、情報を守る意識が希薄になってしまうことが少なくありません。

その結果、取締役がまだ開示の手続きをしていない未公表の重要事実を株主総会や投資家説明会で話してしまう、秘密保持契約を結んでいない特定の株主との対話の中で情報を出してしまうことが起きないわけではありません。

万が一にも、軽はずみに情報を漏えいしてしまえば、取締役による情報漏えいですし、またインサイダー規制違反となるインサイダー情報(重要事実)の伝達にもなります。

最近は、株主総会や投資家説明会の様子をライブ配信したり、録画を自社サイトに掲載する上場会社も増えてきました。

開示の手続きをしないまま、インサイダー情報を多くの投資家・株主に漏えいしているのと同じことになってしまいます。

今回のクシムのケースでは、株主との意見交換会の場での取締役の言及等を見て、会社がインサイダー情報(重要事実)の漏えいではないかと気がついて、その後の調査を行ったのですから、当該取締役は別として、会社としては情報管理に対する危機管理のレベルが非常に高い印象を受けます。

経営統合の検討中止へ発展

クシムのケースは、取締役による重要事実の漏えいに留まりませんでした。

2024年12月2日、フィスコは、クシムとの経営統合について具体的な検討を進めていたものの、クシムの当該取締役による重要事実の継続的な漏洩や不適切行為の可能性に対する重大な懸念があることを理由に、クシムの経営統合について検討を中止したことを明らかにしました。

なお、フィスコの開示資料にある「クシム取締役のインターネット上の投稿」とは、下記サイトのことだと思われます。

現場の従業員が情報を漏えいした(断りなく勝手にしゃべった)などを理由にして、「こんな大事なことをペラペラ話すやつがいる会社は信用ならない」などと、相手から個別の取引が打ち切られる(解除・解約される)、今後の取引そのものがなくなることは、珍しくありません。

ほかにも、取引そのものは継続してもらえるけれど、相手から「あいつは信用できないから担当から外して欲しい」と、情報を漏えいしている担当者を外すよう求められるケースは、よくあります。

しかし、クシムのように役員レベルが情報漏えいした疑いがあることを理由に、経営統合という重要な契約を破談されることは珍しいのではないでしょうか。あまり聞いたことがありません。

今回のケースはどうなるかわかりませんが、一般的には、取引の相手方から情報漏えいを理由に損害賠償を請求されてもおかしくありませんし、また会社から情報を漏えいした取締役に損害賠償を請求することがあってもおかしくありません。

取締役を含む役員は、自身の不用意な情報漏えいによる影響力の大きさや責任の重みを今一度認識する必要があります。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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