公正取引委員会がイトーキに不当な経済上の利益の提供要請を理由に警告。2009年以来の物流特殊指定に基づく警告事案。物流の対価の支払いでよくある勘違い。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年11月28日、公正取引委員会がイトーキに物流特殊指定違反のおそれとなる「不当な経済上の利益の提供要請」があったことを理由に警告を行いました。

イトーキの物流特殊指定違反のおそれの概要

イトーキは、オフィス家具の運送、搬入、組立て、据付け及び搬出の業務を委託する物流事業者に対して、

  • 時間外費の対象を納品場所での業務に要した時間に限ることにより、納品場所以外での業務
  • 本件運送業務に係る特定の附帯業務(オフィス家具を車両に積み込む業務及びオフィス家具の梱包材等の残材を引き渡す業務)

を無償で行わせている疑いがあるとして、警告を受けることになりました。

公正取引委員会が公表した概要図は、次のとおりです。

「附帯業務」は別料金

「附帯業務」とは何か

物流に馴染みがないと「附帯業務」という言葉を見ても、何のことかわからないかもしれません。

「物流の2024年問題」のときにも、この「附帯業務」という言葉が出てきました。

「附帯業務」の内容を簡単にまとめると、

  • 品代金の取立て、荷掛金の立替え、貨物の荷造り、仕分、保管、検収及び検品、横持ち及び縦持ち、棚入れ、ラベル貼り、はい作業
  • その他の運送事業に附帯して一定の時間、技能、機器等を必要とする業務

です。

「附帯業務」は別料金

荷主は、物流事業者に対して、荷物の積み卸しと附帯業務には運送業務の対価(運賃)とは別料金を支払わなければいけません。荷待ち時間が30分を超える場合も同様です(国交省「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃の告示」)。

そのため、イトーキのように、納品場所以外の業務、オフィス家具を車両に積み込む業務及びオフィス家具の梱包材等の残材を引き渡す業務を「無償」で行わせたり、行わせようとすると、「物流事業者にタダ働きをさせた」ことになり、物流特殊指定の「不当な経済上の利益の提供要請」に違反したことになるのです。

荷主からしたら「荷物の積み卸しくらい手伝ってもらってもいいのではないか」と思うかもしれませんが、対価を支払わないで物流事業者に荷物の積み卸しをさせたら違法です。

去年、おととし、「物流の2024年問題」について役員研修を行った会社では、2024年からは「ついでだから荷物の積み卸し手伝ってよ」は違法になることを警告させていただきました。

逆に、物流事業者から相談を受けたときに、「附帯業務だから2024問題を説明して堂々とお金をもらえる」と助言して、荷主との契約の見直しに成功したこともありました。

その観点から考えると、公取委がイトーキに警告したのは、法改正の動きだけでなく、「物流の2024年問題」に対応できていなかったことの見せしめなのかな?とも勘ぐってしまいます。

過去の物流特殊指定違反による警告事案

なお、公正取引委員会の公表資料によると、物流特殊指定違反を理由にする警告は、2009年4月15日に代金減額を理由にユナイトとリリカラの2社に警告を発した以来です。

物流特殊指定と優越的地位の濫用、下請法の適用場面の違い

今回、警告の根拠となったのは「物流特殊指定」ですが、内容は「不当な経済上の利益の提供要請」違反です。

物流特殊指定といえども荷主が禁止されている行為の内容は、独禁法の優越的地位の濫用や下請法と同じです。

では、物流特殊指定と優越的地位の濫用、下請法とはどのような関係になっているでしょうか。

詳細は公正取引委員会が出している物流特殊指定のガイドブックに委ねて、以下では、ポイントだけ解説します。

物流特殊指定と下請法の棲み分け

荷主(真荷主)→元請物流事業者→下請物流事業者、という商流で、継続的に物品の運送・保管を委託している場合には、

  • 荷主と元請け物流事業者との間・・物流特殊指定
  • 元請物流事業者と下請物流事業者との間・・下請法

が適用されます(適用される場合、荷主は「特定荷主」、元請物流事業者は「特定物流事業者」となる)。

ただし、荷主と元請け物流事業者の資本金の規模が問題となり、物流特殊指定が適用されるのは以下の取引に当てはまる場合です(図は、ガイドブック3頁からの引用)。

資本金の規模で適用されるかどうかが決まる点は、下請法と同じ発想です。

この関係に当てはまらない場合には、原則に戻り独禁法が適用され、荷主が元請物流事業者に行うことは優越的地位の濫用かどうかを判断されることになります。

荷主が子会社に継続的に物品の運送・保管を委託している場合

荷主が子会社に継続的に物品の運送・保管を委託し、子会社が元請物流事業者として下請物流事業者に再委託している場合には、

  • 荷主と下請物流事業者との資本金の規模を比較
  • 子会社(元請物流事業者)と下請物流事業者との間に物流特殊指定が適用されます。(下請法ではありません)。

これもガイドブック4頁の図がわかりやすいので引用します。

今後も下請法の改正が予定されているなど、公正取引委員会は下請事業者(協力会社)の保護のために本気度を高めています。

物流に限らず、下請事業者(協力会社)との取引条件、取引内容は随時点検、見直しをするようにしてください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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