東大など5大学の研究者が、知らずに北朝鮮と共同研究者になっていたことが判明。第三国を介した産業スパイに取り込まれないように注意をすべき情報セキュリティ上のポイント。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年11月28日の日経電子版に「国連の制裁下にある北朝鮮の研究者が関わる国際共著論文を日本経済新聞が調べたところ、東京大学や名古屋大学といった日本の5大学などに所属する研究者が名を連ねた事例が8件見つかった。」との記事が掲載されていました。

第三国の研究者を通じて間接的に論文の共著者になった

会員限定記事なので詳細は省きますが、

  • 北朝鮮への国連制裁が強化された2016年末以降に、北海道大学、東大、名大など7機関に所属があると登録された9人が、北朝鮮の機関が関わる論文8本に著者として名前が載っていた
  • 第三国の研究者を通じて間接的に論文の共著者になり、すべての事例で、日本の研究者は共著者に北朝鮮の研究者がいることを「知らなかった」
  • これが国連による北朝鮮への制裁に違反しないか

といった趣旨の内容です。

なお、文科省は、2024年6月25日に、研究機関や大学に対して、

特に、多国間の国際的な共著論文を執筆する場合においては、貴機関所属の研究者と北朝鮮の研究者に直接の協力関係が無い場合でも、意図せず共著となる可能性もあることから、原稿執筆段階や投稿前における確認の徹底等、適切に対応いただくよう、所属するすべての研究者へ周知をお願いします。

警告を発しています。

産業スパイは第三国・第三者を装って近づいてくる

企業の立場では、今回の各ケースを、産業スパイに取り込まれないための他山の石として参考にして欲しいと思います。

今回の各ケースで注目すべきは、第三国の研究者を通じて間接的に論文の共著者になった、という部分です。

以前に軍事転用可能な技術、和牛、農産物などが第三国経由で輸出させられていることを実例を添えて紹介しました。

企業が持っている技術情報を盗みたい国やライバル企業は、皆さんの企業に直接「この技術情報が欲しい」とは求めてきません。

技術情報を盗もうとする国や企業は、第三国・第三者のフリをして取引を持ち掛け、その技術が使われている製品・サービスを手に入れます。

また、技術情報を盗もうと考えている第三者は、取引先を装うとは限りません。

2001年には中国共産党を親族に持つママが京都祇園に高級クラブをオープンし、来店した電子部品や精密機器で最先端の技術を持つ京都府内の企業の幹部や技術者から、製品情報や技術部門の人事異動、中国市場への企業戦略といった内容を聞き出していた、という事件も起きています。

ビジネスではない風を装って技術情報などを盗み出した、ということです。

詳しくは以前に投稿にしました。

これらの事例を踏まえて、

  • 海外に商品を提供する取引の場合には、自社の商品がその先にどこに流れていくのかといった商流を慎重に確認する必要があること
    • 特に新たに取引を持ち掛けてきた海外企業の場合には要注意
  • ビジネスではない場だからといって、自社の商品に関する情報や技術情報、企業戦略に関する話しをしないこと

をくれぐれも注意するようにしてください。

産業スパイは自社の従業員・派遣社員として潜り込んでくる

今回のケースとは違うので詳しくは取り上げませんが、産業スパイの典型は、技術情報を盗みたい会社に従業員・派遣社員として潜り込んでくるケースです。

2023年6月に産総研の中国籍の上席主席研究員が研究データを中国企業に漏えいして不正競争防止法違反で逮捕されたケースが記憶に新しいですが、それ以外にも、

  • 2011年にヤマザキマザックに勤務していた中国人が、中国政府関係者と見られる者や中国で工作機械メーカーを経営する知人から求められて、工作機械の設計データを不正取得して不正競争防止法違反で有罪になったケース
  • 2019年に富士精工の中国人が設計データを不正取得し、中国の求人サイトに登録して、資料を多数持参するとアピールして、上海の企業から内定をもらっていたとして不正競争防止法違反で有罪になったケース
  • 2024年2月に山村硝子の元中国人(日本に帰化済み)が技術情報を不正取得したとして不正競争防止法違反で有罪になったケース

などがあります。

  • 2024年8月にNHKラジオ国際放送で業務委託先の中国籍のスタッフが放送乗っ取り(放送ジャック)をしたケース

は産業スパイではありませんが、業務委託先のスタッフとして潜り込みNHKラジオ国際放送の放送サービスを不正利用したものと言えるので根っこは同じです。

いずれも詳細や注意点は以前に紹介したので、興味があればそちらもご覧ください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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