アメリカのウォルマートが多様性などの支援を中止。やっときた反ESG、反SDGs、反多様性などの流れ。2025年はあえて上場廃止する企業が増えるかもしれない?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年11月26日、アメリカの大手スーパーウォルマートが、ダイバーシティー(多様性)とエクイティー(公平性)、インクルージョン(包摂性)を重視するプログラムを撤回する、との報道がありました。

ウォルマートは25日、公式なコミュニケーションにおいて「DEI」という用語の使用を取りやめることを確認。また、従業員に対する人種平等研修も制限し、性的少数者ら LGBTQ の擁護団体であるヒューマン・ライツ・キャンペーンによるランキングへの参加も見送る

上記記事では、ウォルマート以外にも、DEI 強化を打ち切る企業が増えているとも報じられています。

2023年に、2024年は「反ESG」かもしれない「反SDGs」が始まるかもしれないとの投稿を書きましたが、いよいよそれが現実のものとなってきた格好です。

反ESG、反SDGs、反多様性の動き

アメリカでの動き

過去の投稿でも紹介しましたが、アメリカでは、2023年に連邦議会、州議会で反ESGの議案が可決されるなど、反ESGの流れが出始めました。また、2023年にはSDGs疲れも囁かれ始めました。

ESGやSDGsが「WOKE CAPITALISM / 意識高い系資本主義」と揶揄される動きもありました。

そもそも、会社は営利社団法人ですから売上・利益を上げる営利を追求しなければならない存在であるので、ESGやSDGsなど相反する概念を企業に強要することは矛盾します。

その矛盾感が素直に表面化してきたのが、反ESGや反SDGsの動きと言って良いでしょう。

日本での動き

日本企業の場合はどうでしょう。

企業が営利社団法人だとしても売上・利益だけを追求していればよいわけではなく、社会の一員として企業の社会的責任(CSR)を意識しなければならないことは忘れてはいけません。

そもそも、日本では、江戸時代から近江商人の「三方よし」のように「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という考え方や、渋沢栄一が「論語と算盤」で唱えた「道徳経済合一」のように「私利私欲ではなく公益を追求する『道徳』と、利益を求める『経済』が、事業において両立しなければならない」という考え方が浸透していました。

このように、日本では、企業の社会的責任(CSR)という言葉が現れる前から、多くの企業が社会の一員として振る舞うことを意識していました

ところが、株式市場が国際化するのに併せて、また、会社法が改正されるのに併せて、アメリカから企業の社会的責任(CSR)という言葉が輸入されました。

仕舞いには、環境・社会・ガバナンスを意識したESG、国際目標であるSDGsとして多様性やジェンダー平等などが求められるようになり、証券取引所が上場会社向けに作成したコーポレートガバナンス・コードにも役員の多様性の確保、従業員の多様性などへの配慮などが明記され、金融庁が2020年に改訂した日本版スチュワードシップコードを受けて機関投資家や議決権行使助言会社も明言するようになりました。

(そもそも証券取引所や官庁がESG、ジェンダー、多様性など思想性の強いものをガイドラインに定めたら、後戻りできなくなるのでは?という懸念はなかったのか、という素朴な疑問)

日本の上場会社にとっては、「そんなこと言われなくても前からやっているよ」という内容まで義務づけられ、日々の事業活動を行うにあたり足枷、重荷になっている感も否めません。

もしかしたら、それが日本の企業から活力を奪っているかもしれません。

そうだとすると、日本の上場会社でも反ESG、反SDGsなどを本音では感じている会社があるかもしれません。

日本での反ESG、反SDGs、反多様性の難しさ

欧米を中心に移民政策の失敗を反省した動きが見えているのに、日本ではこれから移民政策に力を入れようとしていたりするなど、日本は、世界の動きからはいつも周回遅れです。

しかも、日本の場合、証券取引所が上場会社に向けた発表したコーポレートガバナンス・コードの中に、企業の社会的責任(CSR)、役員の多様性の確保、従業員の多様性への配慮などSDGsに関係する要素を多く盛り込み定めました。

また、2020年に改定された日本版スチュワードシップコードを踏まえ、多くの機関投資家や議決権行使助言会社が、上場会社のESGへの意識を議決権行使の判断基準に入れることを明言しています。

さらに、男女共同参画の重点方針2023、女性版骨太の方針2024で示し、証券取引所の企業行動規範に記されたように上場会社の女性役員の比率を2030年までに30%以上とすることが臨まれ、また、厚労省が女性の管理職比率について従業員101人以上の企業(非上場会社を含む)に公表を義務付ける方針を示すなど、女性役員・管理職の増加に向けた動きは止まりません。

そうだとすると、日本の上場会社は、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コード、男女共同参画の重点方針、企業行動規範が見直されない限り、なかなか反ESG、反SDGs、反多様性に踏み切れないかもしれません。

そもそも、日本の場合、どうしても横並び体質があり、1番手を嫌う傾向にあるため、他の企業に先駆けて、反ESG、反SDGs、反多様性を言い出しにくい雰囲気があります。

いち早く反ESG、反SDGs、反多様性を宣言することで、非難・批判の対象になることを恐れているかもしれません。

もしそれができるとしたら、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コード、機関投資家の声などの影響を受けない非上場会社かもしれません。

そうすると、2025年は、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードなどの規制を免れ、機関投資家の声に左右されずに、反ESG、反SDGs、反多様性に踏み切るためにあえて上場廃止にする会社が現れてもおかしくありません

知らんけど。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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