船井電機が取締役による準自己破産の申立てにより破産手続き開始決定。「準自己破産」の手続きから推測できる事情と、歴代取締役・監査役の責任。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年10月24日に、船井電機が取締役による準自己破産の申立てにより、東京地裁から破産手続き開始決定を受けました。

「準自己破産」の申立てから推察できること

今回の船井電機の破産手続き開始決定が珍しいのは、取締役による「準自己破産」の申立てによる点です。

一般的に法人が破産申立てをする場合には、取締役会設置会社なら取締役会決議を得て、取締役会非設置会社なら取締役全員の同意によって自己破産を申し立てます。

しかし、取締役会設置会社で取締役会が開催できない場合や取締役会で承認可決できない場合、取締役会非設置会社で取締役全員の同意が得られない場合には、取締役が「準自己破産」を申し立てることがあります。

実務上は、代表取締役が死亡した場合や他の取締役と連絡がとれない場合(取締役会の招集ができない場合)に準自己破産の申立てをすることがあります。

そうだとすると、2024年9月27日付けで船井電機HDの代表取締役でもある船井電機の社長が退任したことで、代表取締役社長が不在の中での破産申立てだから準自己破産なのかもしれません(下記のとおり代表取締役会長はいますが、いつから代表権をもったのかまでは商業登記簿で確認してません)。

なお、船井電機のリリースで役員構成を見ると、2024年10月29日時点で以下のとおり代表取締役社長が不在のWEBサイトに飛びます。

ひょっとすると、取締役間で経営再建に向けた意見の対立があって、代表取締役社長が退任したのかもしれません。

破産申立ての記録を閲覧したわけではないので、あくまでも推察です。

※2024年10月30日追記

読売新聞にて、準自己破産の申立人は創業家の船井秀彦取締役であること、9月27日に前社長が退任した後取締役会が開催されず、かつ、運転資金の目処がたたなくなったことから準自己破産を申し立てたことが報じられていました。

船井電機を巡る現状

船井電機の破産手続き開始の原因については本記事の主題ではないのですが、現状は、東京商工リサーチの報道や、サイバー・バズの2024年5月8日付け開示10月4日付け開示によると以下のように整理できます。

サイバー・バズは、現在、船井電機HD(※2024年10月31日付けでFUNAI GROUP に商号変更)、秀和システムらに連帯保証債務の履行を求める訴訟を提起しています。

当事者関係図に起こしてみて疑問に思ったのですが・・・

仮差押えされ、かつ、連帯保証債務の履行を求める訴えを提起されている当事者は、親会社である船井電機HDであって、破産開始決定を受けた船井電機ではありません。

船井電機HDが債権を仮差押えされたことで取引先から入金がなくなったり連帯保証債務の訴訟で敗訴すれば多額の負債を抱えることになることなどを理由にして破産申立てをするならわかりますが、船井電機は訴訟を提起されているわけではなく、また取引先からの入金が止まったわけではありません。

帝国データバンクでは「グループ全体の信用が低下した」と報じられていますが、売上が極端に下がったとか、取引先が離れたなどの事情があって、キャッシュフローや資金繰りが急激に悪化したなどの事情があるのでしょうか。

船井電機の本当の破産原因は何なのか気になります。

※2024年10月30日追記

読売新聞によると、秀和システムが船井電機(現、船井電機HD)を買収した後、船井電機の資金が流出し、秀和システムによる買収前に約347億円あった船井電機の現預金は「ほぼ尽きている」状況となり、保有する関係会社株式も相当程度が無価値となることも想定され、破産申し立ての理由となる「継続的に弁済することができない状態」となったこと、 船井電機HDも214億円の債務超過に陥り、現預金も9月末時点で約700万円まで減少し「早晩資金繰りに行き詰まる」状態だったこと、10月25日に予定していた従業員給与合計1億8000万円を出金すれば運転資金が1000万円を下回り、翌日から支払いができなくなる状況でもあった、ようです。

船井電機の取締役・監査役の責任

船井電機の歴代の取締役、歴代の監査役の責任

船井電機は、2024年9月27日付けで船井電機HDの代表取締役でもある船井電機の社長が退任し現在の役員構成に変わって、再建に向けて動き出したばかりです。

にもかかわらず、取締役による準自己破産の申立てで破産手続き開始決定を受けたということは、よほど財務状態が悪かったのかもしれません。

※2024年10月30日追記

資金繰りに窮するほど財務状態は相当悪かったようです。

そうだとすると、今後は、破産管財人によって、ここまで財務状態を悪化させた歴代の代表取締役の経営判断や業務執行の責任、また、暴走していた取締役がいたとすれば、それを止めることができなかった歴代の取締役による監視義務の責任、さらには歴代の監査役の責任などが問われるかもしれません

以前にも取り上げたセイクレスト事件は、代表取締役が会社の資金を不正に流出させ会社を破産させるに至ったところ、破産管財人が監査役を訴えたケースです。詳しくは以前に投稿した下記2つの記事で確認してください。

そうだとすると、船井電機のケースでも破産管財人が責任を追及する訴訟を提起してもおかしくありません。

船井電機HDの取締役の責任

本当なら船井電機HDがミュゼプラチナムを買収し連帯保証したことが一番の原因なのかもしれませんが、今回破産したのは子会社である船井電機なので、船井電機HDの役員の責任を追及できるのは株主である秀和システムであって船井電機の破産管財人ではありません

とはいえ、アクロバティックな構成が成り立って、船井電機の破産管財人が船井電機HDの取締役に責任を追及できたら、それはそれで興味深いです。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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