こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
ライオンは、2024年9月1日から放送していた歯磨き「システマハグキプラスプレミアム」のCMで使用した効果音が「緊急時の警告音に似ていて不安になる」と指摘を受けたことを理由に放映を中止し、Youtubeやブランドサイトでの動画配信も非公開にしたことを、9月3日に公表しました。
下記写真が公式サイトに掲載されたリリースです。
Jアラートに似たCMの効果音
「システマハグキプラスプレミアム」のCMは、女優の真矢ミキが出演し、冒頭で真矢ミキの頭上にクエスチョンマークを描いた風船様のものが膨らんでいく演出をしていました(YoutubeなどにCMを撮影した動画がアップされています。著作権侵害だと思うのであえて紹介しません)。
この風船様のものが膨らんでいく際の効果音がJアラート(国民保護に係る警報のサイレン音)に似ていたのです。
Jアラートはドとレのような長2度の和音にミ♭くらいの音、ドからラ♭みたいな音を、異なる周波数で重なり合わせ不協和音としていることで不快な音となり、国民が気がつきやすくしています。
システマハグキプラスプレミアムのCMで使われた効果音は、Jアラートと同じような音階の不協和音となっていたために、テレビやYoutubeから目を離してCMを見ていない人に、CMの存在を気づかせ振り向かせる効果を発揮しました。
しかし、今回は気づかせる以上に不快感を与える結果となってしまいました。
なお、マリオブラザーズの効果音の中にも同じような音に聞こえるものがあると思うのですが、私だけでしょうか(短いので不快には感じません)。
効果音を採用した意図は理解できる
システマハグキプラスプレミアムのCMの効果音に不協和音を採用した意図は、CMから目を離している人にCMの存在を気がつかせ振り向かせる効果にあったであろうことは、おおよそ推測がつきます。
他社のCMでも、ピンポーンとチャイム音から始まるもの、ダッダーンのセリフから始まるもの(元々はピップの栄養飲料のCMでした。2023年になかやまきんに君がカップヌードルのCMでリバイバルしていました。)など、同様の狙いで冒頭に効果音を入れているものは、少なくありません。
最近では、製品リコールのCMが、リコールをしていることを気づかせるために、効果音が始まるものが多いように思います。
そのため、効果音を冒頭に入れた意図は理解できます。
なぜ不快に感じさせる効果音を起用することになってしまったのか?
今回は、Jアラートに似ていて不快との指摘があったことが放映中止の決め手になりました。
おそらくCMを作成した側は、風船様のものが膨らむという映像を見ながら膨らむ様子を演出する効果音を選定し、今回の効果音を起用したのだと推察できます。
風船様のものが膨らむという演出がわかった状態で映像を見れば、Jアラートに似ているとは感じずに、膨らんでいく様子をうまく演出する音に聞こえますし、不快にも感じません。
しかし、CMから目を離している人は、風船様のものが膨らんでいる様子が頭になく、突然、テレビやYoutubeからJアラートに似ている音を耳にすることになります。
映像や演出を見るよりも先に効果音を耳にすることが先行するために、音によるイメージだけが頭に浮かびます。
今回は、Jアラートに似た効果音だったために、効果音を聞いた聞き手(消費者)は「Jアラートだ」「警戒しなきゃ」という思いが先行してしまいました。
このように作成する側と効果音を耳にする聞き手(消費者)の置かれている状況が異なるために、作成した側が意図していない不快感を聞き手に与えてしまったのです。
ここが今回のCMの落ち度というか、作成する側の盲点だったかもしれません。
効果音を採用する際に必要な配慮
Jアラートと同様に不快感や緊張感を与える効果音には、緊急地震速報やNHKの緊急地震速報チャイム音があります。
これに対し、災害・避難情報、津波警報、特別警報を受信したときの警報音のように、不快感を与えない効果音もあります。
こうした実例を見ると、CMで効果音を選択する際に、目立つかどうかだけでなく、映像や演出を見ていない状況で音だけを聞いて不快感を与えるかどうかという配慮をすれば、不快感を与えない効果音を選択したり、作曲することはできそうです。
CMを作成する側は、こうした工夫も試みる必要があるにように思います。
こうした配慮や工夫が必要なのは効果音だけに限りません。
過去には、演出の内容が「危ない」と指摘された三ツ矢サイダーのCMや、「不適切」と指摘された淡麗グリーンラベルのCM、「敬意がない」と指摘された雑誌LAMREやVALENTINOなどもあります。
詳しくは、以前にブログ記事にしたことがありますので、そちらを見てください。