こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
2024年8月9日、消費者庁は、RIZAPが運営するchocoZAPの表示について、優良誤認表示とステルスマーケティングであることを理由に、措置命令を発しました。
1回の措置命令で、2つも景表法違反に該当するケースは珍しいように思います。
2つの景表法違反
消費者庁が公表した資料によると、優良誤認表示に該当すると判断された表示とステルスマーケティング告示に該当すると判断された表示の各内容は以下のとおりです。
優良誤認表示に該当する表示
RIZAPは、例えば、令和6年3月28日・29日に、「\\1回たった10分で//理想の白い歯へ」と称するchocoZAPのサイトに、「追加料金なしで 全サービスも24時間使い放題!」、「ボディメイクや美容ケアはもちろん、リラクゼーションやワーキングスペースも好きな時にご利用可能です!」等と表示しました。
また、Instagramには、セルフホワイトニング、セルフ脱毛などのサービスについて、「全店使い放題」「セルフホワイトニング いつでも気軽に歯のホワイトニング」などと、1日24時間のうち、いつでも又は好きな時に利用できるかのように示す表示をしていました。
下線部のように、「24時間」「いつでも」をアピールしていました。
しかし、実際には、利用できる最大の合計時間数には上限があり、1日24時間のうち、いつでも又は好きな時に利用できるものではありませんでした。
そのため、優良誤認表示と判断されました。
ステルスマーケティング告示に該当する表示
RIZAPがchocoZAPのサイトに掲載した「お客さまの声」が、対価を支払うことを条件に依頼してた投稿であるのに、RIZAPが依頼したものであることを明らかにしないで表示したものでした。
そのため、ステルスマーケティングの告示に該当する表示と判断されました。
下記の写真は、消費者庁が公表した資料からの引用です。
「お客さまの声」を掲載するときの注意点
「お客さまの声」の功罪
優良誤認表示については過去に何度か取り上げたので、今回は「お客さまの声」を掲載するときの注意点についてのみ取り上げます。
Webマーケティングの世界では「お客さまの声」を掲載する例が以前からよく見られます(ちょっとググるだけでも、Webマーケティングの際に「お客さまの声」を掲載することを推奨するサイトが多数ヒットします)。
典型的なのは、Amazonや楽天などに掲載される購入者の声や評価、Googleマップのクチコミ・評価です。
商品・サービスを提供している事業者がどんなに魅力的な商品・サービスであると宣伝しても消費者は半信半疑ですが、「お客さまの声」なら同じ消費者の立場にある者の声なので、消費者は信用しやすく、購買に向けて参考にする、というメリットがあるからです。
その反面、商品・サービスを提供している事業者が自分たちで考えた「お客さまの声」を装って掲載することも可能です。
また、事業者が消費者に「こういう声を書いて欲しい」と依頼して、形式上は「お客さまの声」ではあるけれども、実質は、事業者が「お客さまの声」の内容をコントロールすることも可能です。
これでは、事業者が消費者を騙しているのと同じです。
先日は、クリニックを運営する医療法人がGoogleマップの評価を依頼したケースでは、先日、ステルスマーケティングであるとして措置命令が出たばかりです。
「お客さまの声」を掲載するには・・
ステルスマーケティングの運用基準では「外形上第三者の表示のように見えるものが、事業者の表示に該当するとされるのは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合」は、ステルスマーケティングに該当するとしています。
事業者が自ら表示の内容を考えた場合はもちろん、医療法人のケースのように事業者が第三者をして表示させた場合だけではなく、太字で強調したとおり、「客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合」もステルスマーケティングに該当します。
運用基準では、以下のような規範が示されています。
「客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある」かどうかの判断に当たっては、事業者と第三者との間の具体的なやり取りの態様や内容(例えば、メール、口頭、送付状等の内容)、事業者が第三者の表示に対して提供する対価の内容、その主な提供理由(例えば、宣伝する目的であるかどうか。)、事業者と第三者の関係性の状況(例えば、過去に事業者が第三者の表示に対して対価を提供していた関係性がある場合に、その関係性がどの程度続いていたのか、今後、第三者の表示に対して対価を提供する関係性がどの程度続くのか。)等の実態も踏まえて総合的に考慮し判断する。
(注) 事業者が第三者の表示に対して支払う対価については、金銭又は物品に限らず、その他の経済上の利益(例えば、イベント招待等のきょう応)など、対価性を有する一切のものが含まれる。
太字にした部分には、以下の要素が挙げられています。
- 事業者と第三者との間の具体的なやり取りの態様や内容(例えば、メール、口頭、送付状等の内容)
- 事業者が第三者の表示に対して提供する対価の内容
- その主な提供理由(例えば、宣伝する目的であるかどうか。)
- 事業者と第三者の関係性の状況(例えば、過去に事業者が第三者の表示に対して対価を提
供していた関係性がある場合に、その関係性がどの程度続いていたのか、今後、第三者の表示に対して対価を提供する関係性がどの程度続くのか。)
1は依頼した内容です。
例えば、「事業者の商品・サービスの良い点を投稿して欲しい」ならステルスマーケティングになりやすいでしょう。
他方で、「当社の商品・サービスの感想について自由に投稿して欲しい」ならステルスマーケティングにはなりにくいと思います。
2は文字通り対価です。
現金等がいくら支払われるのか、事業者の商品・サービスの割引なのか、事業者の別の商品・サービスにだけ使える割引券なのか、それとも何にでも使える些少なポイントなのかによっても、ステルスマーケティングになりやすい/なりにくいは異なるでしょう。
3はなぜ依頼したのか、です。
例えば、「今後の商品・サービスの改善に向けて参考にしたい」なら、悪い点も書いてほしいという趣旨が見られるので、ステルスマーケティングになりにくい、と思います。
4は事業者と第三者(お客さま)との関係です。
力関係の上下がある場合や、今後も取引が続く場合には、ステルスマーケティングになりやすいでしょう。
他方で、1回限りのネットショッピングなら、ステルスマーケティングにはなりにくいと思います。
これらの要素を組み合わせて、ステルスマーケティングになる/ならないが判断される、ということです。
例えば、「1回限りのネットショッピングを利用したお客さまに、今後の商品・サービスの改善に向けて参考にしたいので、忌憚のない意見をコメントして下さい。コメント頂いた方には内容にかかわらず楽天ポイント(楽天ではなくYahoo!でもAmazonでもVポイントでも何でも可)10ポイントを差し上げます」程度ならステルスマーケティングにはまずならないと思います。
「お客さまの声」の掲載がステルスマーケティングにならないようにするための対策
上記の要素を組み合わせても、ステルスマーケティングになるか/ならないかの判断がつきにくい場合には、「お客さまの声」を掲載するときに、その「お客さまの声」をどうやって集めたかを明示することが不可欠です。
ステルスマーケティングの前提は「外形上第三者の表示のように見える」ことです。
そのため、「当社の商品・サービスを継続的にご利用頂いている方の声」「掲載にあたり、お客さまにはポイントを還元する形で、声を集めました」など、対価が動いていることがわかるようにすれば、ステルスマーケティングであることを回避できます。
ステルスマーケティングの運用基準にも
事業者が第三者に依頼・指示をしてある内容の表示をさせた場合における当該事業者の表示である旨の表示としては、例えば、「弊社から○○先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。」といった表示をすることが考えられる
と例示されています。
従来どおりの意識のまま「お客さまの声」を掲載しないように注意して下さい。