「クレベリン」の表示に関する消費者庁からの措置命令で連結最終赤字に陥ったことで、代表取締役が株主代表訴訟で訴えられる

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

今日も景品表示法に関連した話しです。

結論を先に言うと

  • 優良誤認表示を理由に消費者庁から措置命令を受けて損失を発生させると株主から代表訴訟で訴えられるリスクがある。
  • 日頃から表示管理体制を整備・機能させる義務がある。
  • そのためにも従業員に対する教育を実施することが重要である。

という話しです。

興和が大幸薬品の代表取締役に株主代表訴訟を提起

2023年5月19日、大幸薬品は、代表取締役が株主の興和から代表訴訟で訴えられたことを明らかにしました。

大幸薬品が販売していた「クレベリン」の表示に関し、2021年4月に消費者庁から景品表示法に基づく措置命令を受けたことによって、同年12月期に95億9400万円の連結最終赤字に陥ったことがきっかけです。

措置命令が大幸薬品に与えた影響

大幸薬品が「クレベリン」に「空間に浮遊するウイルス・菌・ニオイを除去」などと表示して販売していたことについて、消費者庁は、2021年4月15日に措置命令を出しました。

2023年4月11日には6億0744万円の過去最高額の課徴金も命じられています。

この措置命令によって、大幸薬品がどれくらいの影響を受けたかでしょうか?

大幸薬品のリリースでは、以下のように説明されています。

感染管理事業において、新型コロナウイルス感染症の需要増からの大幅な反動減に加え、2022 年1月 20 日及び同年4月 15 日に消費者庁から景品表示法に基づく措置命令を受けたことにより、当社は 2021 年 12 月期連結累計期間及び 2022 年 12 月期連結累計期間の2期連続で親会社株主に帰属する当期純損失の計上をいたしました。その結果、2022 年 12 月期における純資産合計は 8,044 百万円となりました。

第三者割当による行使価額修正条項付第 10 回新株予約権(行使指定・停止指定条項付)の
発行に関するお知らせ

2022年12月期連結決算報告を見ると、具体的な影響の内容がわかります。なお、大幸薬品では、同期から会計基準も変更されています。

  • 2021年12月期には95億9400万円の連結最終赤字
  • 2022年12月期も48億9500円の連結最終赤字
  • 2022年12月期の売上高は前期比49.2%減、売上総利益は44.4%減、感染管理事業では売上高は前期比75.9%減
  • 2023年3月1日には新株予約権を発行して27億7850円を調達

「優良誤認表示を理由にした景品表示法に基づく措置命令」という一つの行政処分が、上場会社の事業や財務にこれほどマイナスの影響を与えるとは思っていなかった人が多いのではないでしょうか。

この影響の大きさを見ると、自社商品やサービスのパッケージやカタログ、CMに用いる表示が「優良誤認表示」にならないように予防することの重要性をご理解いただけると思います。

取締役・取締役会の善管注意義務と株主代表訴訟

表示管理体制を整備、機能させることが取締役の善管注意義務

では、自社商品やサービスのパッケージやカタログ、CMに用いる表示が「優良誤認表示」にならないように予防するためには、どうしたらよいでしょうか?

景品表示法は「表示管理体制」の整備を義務づけています。

要は、パッケージやカタログ、CMに用いる表示の内容や、根拠資料をもって実証できる広告であることを事前に社内で確認し、記録する組織や手続といった仕組みを整備することが義務づけられています。

もちろん、仕組みを作って終わりではなく、実際に組織や手続を機能させることが必要です。

これを取締役・取締役会が善管注意義務に基づいて主導しなけらばならないのです。

優良誤認表示という違法を防ぐための仕組みですから、内部統制、コーポレートガバナンスそのものです。

具体的にどのような体制を整備、機能せなければならないかについては、以前に書いたので、そちらを見てください。

株主代表訴訟

今回、興和は大幸薬品の代表取締役の善管注意義務・忠実義務違反を主張しています。

大幸薬品のリリースに詳細は書かれていませんが、大幸薬品の代表取締役が表示管理体制の整備という内部統制、コーポレートガバナンスを整備、機能させる義務を怠ったという主張だと推測できます。

日本システム技術事件の最高裁判例と景表法のガイドライン

そうだとすると、訴訟で争点になるのは、優良誤認表示を予防するだけに十分な表示管理体制を整備していたか、機能させていたか、という体制の質、程度、水準です。

体制の質、程度、水準については、日本システム技術事件の最高裁判例(2009年7月9日)と、景表法のガイドラインが参考になります。

日本システム技術事件判決は以前にも投稿したことがありますが、簡単に振り返りましょう。

事案の概要は次のとおりでした。

  1. 事業部長(※営業部門)は部下の営業職に取引先との契約書を偽造することを指示し、部下は契約書を偽造した(契約書に使用する印鑑から偽造した)。
  2. 事業部は偽造した契約書に基づいて売上があがったことにしてビジネスマネージメント課を通じて財務部門で処理。財務部門はその数字をもとに決算処理して開示した。
  3. 契約書の偽造が発覚したので、売上等決算の数字が下方修正された。
  4. 株主は、これを予防できなかったことを理由に、取締役に損害賠償請求した。

結論から言うと、取締役は責任は免れました。

その理由は、3つあります。

  1. 通常想定される架空売上の計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていた
  2. (印鑑を偽造してまでの契約書の偽造は)通常容易に想定し難い方法であった
  3. 本件以前に同様の手法による不正行為もなかったため、本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情も見当たらない

体制は整備され、その内容も一定程度の水準に達しているから、取締役には責任がないという理屈です。

大幸薬品の場合、どうなるか(予測)

大幸薬品の場合、意図的な不正ではないにせよ、日本システム技術事件判例が示した3点と、景表法のガイドラインに照らして判断されると思います。

措置命令と課徴金納付命令に先立って、大幸薬品は消費者庁に「空間に浮遊するウイルス・菌・ニオイを除去」などと表示した裏付けとなる資料を提出しました。

しかし、消費者庁は「当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められない」と判断し、実際に証明できない広告(不実証広告)であり優良誤認表示になるとの理由で、措置命令と課徴金納付命令を発しました。

少なくとも、大幸薬品の中で研究、開発が行われていたであろうことは推測できます。

そうなると、「不正行為を防止し得る程度の管理体制を備えていたか」や「(合理的な根拠を示すものであるとは認められないとの消費者庁の判断が)通常容易に想定し難い方法」に関連して、

  • 研究や開発が十分な実験が行われたのか
  • 十分な研究や開発と社内で判断した判断権者、判断根拠(基準)はなにか
  • 研究や開発の環境は商品が使用される環境と同一でなければならないことを知っていたか、同一環境ではないことがわかっていたなら再度の研究や開発が必要だと判断しなかったのか、打ち消し表示をしさえすれば問題ないと考えていたのか
  • 研究や開発の成果と、パッケージやカタログ、CMの表示に相違点がないと判断した判断権者、判断根拠(基準)はなにか
  • パッケージやカタログ、CMに記載された打ち消し表示(注意書き)が十分と判断した判断権者、判断根拠(基準)はなにか
  • 取締役・取締役会は、こうした判断権者、判断根拠(水準)の整備はしていたか、現場の役員・従業員への教育をしていたか

などが争われることになるのではないかと思います。

体制を備えていたかが景表法のガイドラインに沿って一つずつ確認されるように思います。

まとめ

大幸薬品のケースを参考に、以下の重要性を再認識していただければと思います。

  • 優良誤認表示を理由に消費者庁から措置命令を受けると、上場会社でも売上や財務に大きな影響(マイナスの影響)を与える
  • 損失を発生させると株主から代表訴訟で訴えられるリスクがある
  • 日本システム技術事件判決と景表法のガイドラインを踏まえて、日頃から表示管理体制を整備・機能させる
  • 従業員に対して景表法についての周知・教育をする必要がある
アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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