ダイドーリミテッドの株主総会で株主提案が一部可決され、会社提案の取締役が5人、株主提案の取締役が3人の体制に。株主(ファンド)の広報手法が変わってきたことを意識して、会社も広報すべき時代。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年6月の株主総会集中期が無事に終わりました。

子会社がNEW YORKERやBrooks Brothersなどを扱うダイドーリミテッドの株主総会では、投資フ発行済み株式総数の32%超を保有する筆頭株主のストラテジックキャピタルが取締役候補者6名を株主提案しました。

2024年6月27日行われた株主総会の結果、会社提案の取締役候補者から5人、株主提案の取締役候補者から3人が承認可決され、今後は8人体制になることになりました。

株主が提案して承認可決された取締役には、ダイドーリミテッドの子会社であるブルックスブラザーズ・ジャパン(2021年7月から出資比率80.5%)にて2017年12月から2021年5月までCFOをしていた者や、同業であるオンワード樫山で取締役会長まで務めた者が含まれているので、今後の経営がどうなるかは気になるところです。

株主総会に向けた両社の動きを、広報の観点から見てみます。

※2024/07/16追記

株主が提案した候補者から選任されたばかりの取締役の3名中の1名が2024年7月9日付けで辞任しました。

また、ストラテジックキャピタルは7月12日付けで全保有株式を売却したとの変更報告書を提出しました。

株主提案と特設サイトの開設

ストラテジックキャピタルのシングルページ開設

今回の動きは、ダイドーリミテッドの株式を約32%買い集めたストラテジックキャピタルが、2024年4月17日に株主提案をし、同時に、「ダイドーリミテッドへの株主提案について」と題する特設サイトを開設したことから始まりました。

最近は、会社と株主とが対立して株主提案をする場合に、株主(ファンド)が特設サイトとして、シングルページ、ランディングページ(LP)を設置する傾向が見られます。

シングルページ(ランディングページ)として1ページ内にすべての主張を整理し、かつ、テキストだけでなく、図表などを駆使して、わかりやすさを徹底しています。

ストラテジックキャピタルのシングルページを見ると、

  • 冒頭に目次代わりのメニューが列挙されている
  • メニューにはページ内リンクが貼ってある(気になる項目に飛べる)
  • プレスリリースがタイトルとともに列挙されている
  • テキスト中心に、引用部分以外は黒、青(紺)、赤の三色のシンプルさを貫く
  • 図表が1項目に一つ
  • 引用した図で強調したい部分には赤字で注釈を入れる

などの工夫がされています。

こうしたシングルページを開設するということは、それだけ本気の株主提案であることを他の一般株主にもアピールして、一般株主からの賛同を得ようということだと思います。

マーケティングと同じ発想なのでしょう。

今回のストラテジックキャピタルのシングルページは非常に参考になります。

他のファンドのケース

直近でも複数のケースで、シングルページを開設されています。

2023年6月に起きた東洋建設対YFOの問題では、YFOが「なぜ東洋建設のガバナンスの再構築が必要なのか」とするシングルページを開設し、自己の主張を丁寧に解説していました。

その結果、YFOが提案した取締役候補者9名中7名が選任され、過半数を占めることになりました。

同じく、2023年6月に起きたフジテックでのオアシス・マネジメント対前会長の問題では、前会長が「FREE FUJITEC」とする特設サイトを開設しました。

花王の株主総会が終わった直後に2024年4月1日には、オアシス・マネジメントが「より強い花王」と題するシングルページを設置し、経営戦略を提言しています。

こうした動きを見ると、今後もこうした特設サイト(シングルページ、ランディングページ)の開設は増えることはあっても減ることはないのではないでしょうか。

守る会社(取締役会)側の広報はどうあるべきか

PDFをアップして「開示」するだけでは訴求力がない

株主、特にファンドがこうした特設サイトを開設するなどネットを駆使して情報を発信しているにもかかわらず、守る側の会社(取締役会)側は、旧態依然で、自社サイトのIRニュースに「開示」資料をアップしているだけにとどまっています。

しかも、「開示」の一般的なフォーマットでテキストベースの文章を並べ、かつ、自社サイトにPDFファイルへのリンクが並んでいるだけです。

一般株主が「開示」資料の内容を見るためには、逐一、リンクをクリックして、その先のPDFファイルを開いて内容を確認しなければならない手間がかかります。

自社サイトに「開示」資料をアップするだけでは、一般株主へのアピールが弱いように思います。

株主(ファンド)が開設したシングルページのわかりやすさと比べて、圧倒的に訴求力が足りません。

まるで竹槍で戦っているかのようです。

特に、売上・利益など経営陣の経営センスが問われている状況下で、ファンドがわかりやすいシングルページ、ランディングページを設け、会社(取締役会)が旧態依然のテキスト中心のPDFを「開示」しているだけでは、一般株主は、両方を比較して、「ファンドの方が今後の売上・利益を上げてくれるのではないか?」と期待してしまうのではないでしょうか。

不正・不祥事が起きた後に自社サイトのトップページを入れ替えたり、専用ページを設けてトップページから飛べるようにするのが一般的になりました。

会社(取締役会)側と株主(ファンド)が対立している状態はそれと同じような危機管理広報を必要とするです。

危機管理広報の意識を持って、会社(取締役会)側も意見をまとめた専用シングルページやランディングページを作成し、自社サイトのトップページから飛べる工夫を施す必要が出てきたと認識を改める必要があります。

ダイドーリミテッドの試み・・Youtubeの動画の効果

ダイドーリミテッドの場合は、自社サイトに「開示」の文章を掲載するだけではなく、6月18日にYoutubeに動画を掲載する工夫をしましたが、株主総会までに掲載された動画は1本だけでした。

しかも、自社サイトのトップページにYoutubeの動画にリンクが掲載されているわけでもなく、Youtubeに動画を掲載したことについてリリースを出すわけでもなかったため、認知度が低かったのでしょう。

6月27日時点で閲覧回数は21万回と表示されますが、チャンネル登録者数は131人に留まります。

また、視聴者維持率グラフ(マウスをあわせると赤い線のすぐ上に現れる山)を見ると、開始直後がピークを迎え、2分15秒あたりに経営陣が現れたところでもう一度山を迎えますが、その後のメッセージを見ている人はほぼいないことがわかります。

21万回も再生されているのに、ほとんどの人が内容を見ていない、ということです。

ダイドーリミテッドがYoutubeの動画の存在をアピールする方法がマズかったのか、それとも、意見表明にYoutubeの動画という方法が適さないのか、Youtubeの動画の時間が長すぎるのか、この1件だけでは何とも評価することができません。

私としては、テキストや図表を駆使しながら意見表明をした方が、株主・投資家がいつでも見ることができ、また、一覧性にも優れているように思います。

ただ、ダイドーリミテッドがこうした試みをしたことは評価したいと思います。

2024/09/13追記

8月28日付け日経電子版に後日談が掲載されていました。面白いです。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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