Googleマップへの口コミ・評価への投稿内容を依頼して表示したクリニックを運営する医療法人に、ステルスマーケティングであることを理由に景表法に基づく措置命令。口コミマーケティングの限界を今一度確認する。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年6月6日、消費者庁は、インフルエンザワクチンの接種費用を割り引くことを条件に、マチノマ大森内科クリニックのGoogleマップへの口コミ・評価に「★★★★★」または「★★★★」の投稿をするよう伝え、当該投稿を表示したことが、ステルスマーケティングに該当するとして、クリニックを運営する医療法人社団祐真会に対して、景品表示法に基づく措置命令を発しました。

2023年10月1日にステルスマーケティングの運用基準の適用が始まってからは、初めての処分事例です。

※2024年11月13日追記

2例目、3例目は以下のとおり

ステルスマーケティングについての過去の処分事例

ステルスマーケティングに関しては、ステルスマーケティング運用基準の適用が開始される前の2021年11月にも、アクガレージとアシストが「ジュエルアップ」「モテアンジュ」と称する食品を提供し、インフルエンサーが「#バストアップ」などのハッシュタグをつけてInstagramにしていた投稿が景表法違反(優良誤認表示)であるとして、アクガレージとアシストに対して措置命令が出されたケースがあります。

このケースは2023年3月にはアクガレージに1944万円の課徴金納付命令も出されています。

詳しくは以前に解説しましたので、そちらを参考にして下さい。

口コミマーケティングとステルスマーケティングの限界

口コミマーケティングの限界

商品やサービスが良いことを消費者(顧客)が口コミで広がると、潜在顧客が増加し、企業の売上に繋がります。

「あのお店のごはんは美味しい」「あの病院は腕が良い」などはよく耳にすると思います。

この口コミを積極的に活用するのが、口コミマーケティングです。

典型的なのが、Amazonや楽天などでの商品の購入者やサービスの利用者による評価です。

こうした評価を、商品の購入者やサービスの利用者が自分の意思で自然発生的に本音で評価している分にはステルスマーケティングではありません。

しかし、そうした評価の内容を商品やサービスを提供している企業が主導するようになると、商品の購入者やサービスの利用者の本音の評価ではなく、企業が表示してほしい投稿内容が表示されるようになり、その投稿内容の真実味が薄れていきます。

商品の購入者やサービスの利用者が本音では「最悪」と思っていても、「企業からキャッシュバックがもらえるなら、言われたとおりの内容で評価を投稿しよう」となると、商品の購入やサービスの利用を検討している消費者(潜在顧客)は、次第に、評価の投稿(表示)を信じることができなくなります。

評価の投稿(表示)そのものの価値が下がると言ってもいいでしょう。

そこで、口コミマーケティングが一定のラインを超えている場合には、ステルスマーケティングとして景表法違反と判断されるのです。

ステルスマーケティングと判断される口コミマーケティングの要件

ステルスマーケティングと判断される表示の定義は、

  1. 事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であるにもかかわらず
  2. 事業者の表示であることを明瞭にしないことなどにより、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示
  3. 外形上第三者の表示のように見える

です。

運用基準でも「告示の対象となるのは、外形上第三者の表示のように見えるものが事業者の表示に
該当することが前提となる」と記載されています。

企業が主体となって商品やサービスの広告宣伝(表示)をしているのに(1の部分)、第三者が表示しているように見えて、企業が主体であることに消費者が気がつきにくい広告宣伝(表示)(2の部分)が、ステルスマーケティングと判断される、ということです。

例えば、企業が投稿する内容を決めて「このとおりの内容で評価を投稿して欲しい」と伝えて、商品の購入者やサービスの利用者がその内容とおりに評価を投稿していて、その投稿内容(表示)を見た消費者(潜在顧客)には、投稿する内容を企業が決めているとわかりにくい場合は、ステルスマーケティングです。

今回のケースでは、

  1. クリニックを運営する医療法人が「★★★★★」か「★★★★」を投稿するように伝え、
  2. クリニックでインフルエンザワクチンの接種費用の割引を受けた人が
  3. 自身の評価であるようにGoogleマップへの口コミ・評価を投稿し、

それがGoogleマップの口コミ・評価に表示されたので、ステルスマーケティングと判断されました。

口コミマーケティングで注意しなければいけないこと

Amazonや楽天に店舗を出店している企業や、自社通販サイトを保有している企業が、商品の購入者やサービスの利用者に「評価を投稿してください」と依頼することはあると思います。

その際に、企業が単に「評価を投稿してください」と伝え、同時に「投稿してくれた方にはポイントを付与します」「投稿してくれた方にはキャッシュバックします」とメリットを示すだけならステルスマーケティングにはなりにくいです。

この場合には、商品の購入者やサービスの利用者が自分の意思で自由に評価を投稿でき、消費者(潜在顧客)には、その自由な内容の投稿が表示されるからです。

しかし、「○○という内容で評価を投稿してください」と企業が評価として表示したい内容を決めて、商品の購入者やサービスの利用者や「○○」とそのまま投稿し、それが表示された場合には、それだけでステルスマーケティングです。

この場合には、企業が表示したい内容を、商品の購入者やサービスの利用者の名義を借りて表示しているだけだからです。

たとえ、企業が「キャッシュバック」「ポイント付与」など、商品の購入者やサービスの利用者が評価を投稿する動機になるニンジンをぶら下げていなくても、ステルスマーケティングに該当します。

他方で、企業が表示したい内容を「○○」とまでは明確に決めず、商品の購入者やサービスの利用者にある程度の裁量を委ねている場合でも、「良い評価をしてくれた方には、キャッシュバック」「ポイント付与」などと投稿される内容に企業の意向がある程度反映されるようなときには、企業が表示したい内容を、商品の購入者やサービスの利用者の名義を借りて表示したと言えるので、ステルスマーケティングと判断されやすいでしょう。

口コミマーケティングを実施する際には、運用にくれぐれも気をつけてください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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