特許法の「発明者」は自然人に限られAIは含まれないとした判決(東京地判2024年5月16日)を読み解く。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

普段は会社法周りの仕事をメインにしていますが、知的財産権の仕事もしないわけではないので、今日はいつもとは違って知的財産権を取り上げます。

2024年5月16日、東京地方裁判所は、特許法の「発明者」は自然人に限られ、AIは含まれない、とする判決を言い渡しました。

事案の概要(訴訟に至った経緯)

事案の概要(訴訟に至った経緯)は、以下のとおりです。

  1. Xは、2019年9月17日に特許を国際出願(特願2020−543051)し、2020年8月5日に特許法所定の国内書面を提出した。
  2. Xは、国内書面に発明者の氏名を「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載した。
  3. 特許庁は、2021年7月30日、Xに対し、発明者の氏名に自然人を記載するよう補正を求めた。
  4. Xは補正をしなかったので、特許庁はXの出願を却下する処分をした。
  5. Xは、却下処分の取り消しを求めて提訴した。

ところで、「ダバス」って何??SAVASなら知ってるけれど・・と思って調べてみたら、今回の訴訟で保佐人になった弁理士が所属する特許事務所のページで解説されていました。”DABUS”なんですね。

裁判所の判断

Xは、特許法はAI発明の保護を否定していない、AI発明の出願では発明者の氏名は必要的記載事項ではないこと、特許を受ける権利の原始的帰属を自然人に限定していない国もあることなどを主張しました。

これに対し、東京地判2024年5月16日は、以下のように判示し、「発明者」は自然人に限られるとし、AIは「発明者」には含まれないと判断しました。

知的財産基本法2条1項は、「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいうと規定している。

上記の規定によれば、同法に規定する「発明」とは、人間の創造的活動により生み出されるものの例示として定義されていることからすると、知的財産基本法は、特許その他の知的財産の創造等に関する基本となる事項として、発明とは、自然人により生み出されるものと規定していると解するのが相当である。

そして、特許法についてみると、発明者の表示については、同法36条1項2号が、発明者の氏名を記載しなければならない旨規定するのに対し、特許出願人の表示については、同項1号が、特許出願人の氏名又は名称を記載しなければならない旨規定していることからすれば、上記にいう氏名とは、文字どおり、自然人の氏名をいうものであり、上記の規定は、発明者が自然人であることを当然の前提とするものといえる。

また、特許法66条は、特許権は設定の登録により発生する旨規定しているところ、同法29条1項は、発明をした者は、その発明について特許を受けることができる旨規定している。そうすると、AIは、法人格を有するものではないから、上記にいう「発明をした者」は、特許を受ける権利の帰属主体にはなり得ないAIではなく、自然人をいうものと解するのが相当である。

裁判所の内容をわかりやすく分解すると、

  • 知的財産基本法2条1項が「知的財産」を「発明・・その他人間の創造的活動により生み出されるもの」として、人間(自然人)の創造的活動により生み出されるものに限っている。
  • 特許法は、特許出願人の表示の記載は「氏名又は名称」としている(自然人と法人の両方を想定している)のに対して、発明者の表示は「氏名」とだけ定めている。これは、発明者は自然人だけであることを前提とした定め方である。
  • 特許法29条1項は「発明をした者」は「特許を受けることができる」と定め、発明者が権利の帰属主体になれることを前提に定めている。しかし、AIには法人格がないから、権利(特許を受けることができる権利)の帰属主体にはなり得ない。

ということです。

要は、知的財産権と特許法は自然人を前提とした建て付けになっている、ということです。

ただ、裁判所は、

AI発明に係る制度設計は、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえ、国民的議論による民主主義的なプロセスに委ねることとし、その他のAI関連制度との調和にも照らし、体系的かつ合理的な仕組みの在り方を立法論として幅広く検討して決めることが、相応しい解決の在り方とみるのが相当である

とも判示しました。

「民主主義的なプロセス」「立法論として幅広く検討して決める」と書いていることから、選挙を経た国会議員たちが議論して、AIを発明者とする法改正をする余地があると、出願人Xがした主張への理解も示しています。

今後、AIを活用した発明はドンドン増えていくのは間違いありません。

いずれは、国会で議論して、知的財産基本法や特許法を改正して、AIに権利を帰属させることもあるかもしれません。

そうはいっても、AIが保有する権利が侵害されたら、AIがどうやって争うのかは皆目見当も付きません。

AIが弁護士・弁理士に委任して争うにしても、そもそもAIが委任するという概念があるのかどうか。AIがどうやって代理人を探すのか、誰が着手金や成功報酬を支払うのかなど、超えなければならないハードルはたくさんありそうです。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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