千代田化工建設、米国子会社とJVを組成する米国企業がチャプター11を申立てた影響を受け、決算発表を延期し、定時株主総会は継続会開催へ。有価証券報告書に記載すべき「重要な契約」の「概要」について。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

千代田化工建設は、2024年5月8日、一部のプロジェクトについて最新の工事状況を踏まえた精査が必要となることが判明したことを理由に、2024年3月期決算発表を延期することを開示しました。

2019年から、千代田化工建設の100%米国子会社が米国Zachry社らと3社でJVを組成し、米国テキサス州にてGolden Pass LNGプロジェクトを共同遂行していたものの、米国Zachry社が2024年5月21日にチャプター11を申立て法的再建手続に入ったことが影響しているようです。

千代田化工建設は、5月29日には、決算関連手続きが完了していないことを理由に、6月28日に開催予定の定時株主総会の継続会を開催する方針も明らかにしました。

Zachry社がチャプター11を申し立てたことの株価への影響

千代田化工建設の株価は、決算発表の延期を開示した5月8日以降、急落しました(Googleの検索結果)。

5月8日に決算発表延期を開示した時点では、延期の理由について詳細を記載していなかったものの、株主・投資家の反応は早かったと言えます。

5月21日にZachry社がチャプター11を申立てたことを開示した後には、株価はさらに下がりました。

株価下落の要因としては、

  • 1つは、千代田化工建設は2018年に米国のLNGプラント「キャメロン」で追加工事が発生した影響などで、2019年3月期に最終損益で2149億円の赤字を計上し債務超過に陥った過去があるため、今回も同様の財務や経営への影響が生じるのではないかと株主・投資家が予測したこと
  • もう1つは、千代田化工建設の2023年3月期の有価証券報告書27ページに「事業等のリスク」として「当社グループの事業領域では、案件の規模や複雑さ、リスクシェア等の事由により、パートナーとジョイントベンチャーを組成し、受注することがあります。パートナーの債務不履行や財政状態の悪化等が生じた場合は、当社グループが契約上の連帯責任を負うため、当社グループの経営に影響を与える可能性があります。当社グループでは、協業を決定する際に、パートナー候補の財務状況等を分析するとともに、取引開始後もモニタリングを継続し、早期にリスクを発見できる体制を敷いております。」との記載があることから、Zachry社の連帯責任を問われ、財務や経営に影響が生じるのではないかと株主・投資家が不安に陥ったこと

が考えられます。

有価証券報告書の「重要な契約等」の記載

こうした株主・投資家の不安や予測を回避するために上場会社ができることの一つに、有価証券報告書の「重要な契約等」の記載を充実させることが考えられます。

「重要な契約等」の記載に関するルール

有価証券報告書(開示府令三号様式)には「重要な契約等」を記載する項目があり、有価証券届出書(開示府令二号様式)の「重要な契約等」に準じた内容を記載します。

具体的には、

「連結会社において事業の全部若しくは主要な部分の賃貸借又は経営の委任、他人と事業上の損益全部を共通にする契約、技術援助契約その他の重要な契約を締結している場合には、その概要を記載すること

https://elaws.e-gov.go.jp/data/348M50000040005_20240401_506M60000002029/pict/2JH00000240613.pdf

になっています(二号様式記載上の注意(33)a)。

なお、「その他重要な契約」に該当するか否かは、金融庁の開示ガイドラインにて、以下のように定められています。

5-17 開示府令第二号様式記載上の注意(33)aに規定する「その他の重要な契約」に該当するか否かの判断に当たっては、次の点に特に留意するものとする。
① 当該契約の締結が、会社法第362条第4項に規定する取締役会の決議事項に相当する場合
② 当該契約の締結によって、契約の相手先に対する事業上の依存度が著しく大きくなる場合(例えば、原材料の供給・製品の販売等に係る包括的契約、一手販売・一手仕入契約等)
③ 当該契約の締結相手によって、著しく事業上の拘束を受ける場合(例えば、営業地域の制限を伴うフランチャイズ契約、ライセンス契約等)
当該契約の締結が、重要な資産の管理、処分(譲渡、取得、賃貸借等)に該当する場合(例えば、重要な固定資産の譲渡(取得)又は、多額の出捐、債務負担を伴う場合(例えば、規模の大きい共同出資事業契約等)

https://www.fsa.go.jp/common/law/kaiji/kaiji-guide.pdf

千代田化工建設が有価証券報告書に「パートナーの債務不履行や財政状態の悪化等が生じた場合は、当社グループが『契約上の連帯責任を負う』ため、当社グループの経営に影響を与える可能性があります。」と記載されている「契約」が、米国Zachry社らとのJVに関わる契約のこと指しているのであれば、JVに関わる契約は「他人と事業上の損益全部を共通にする契約、技術援助契約」または上記5-17④の「債務負担を伴う場合」(その他の重要な契約)に該当するとして、有報に「重要な契約」の「概要」を記載すべきと考えることができそうです。

また、米国Zachry社がチャプター11を申し立てたことによって、千代田化工建設の決算関連手続きに影響が出るくらいですから、 米国Zachry社らとのJVに関わる契約は「他人と事業上の損益全部を共通にする契約、技術援助契約または上記5-17上記④「多額の出捐・・を伴う場合」(その他の重要な契約)にも該当するとして、有報に「重要な契約」の「概要」を記載すべきとも考えられそうです。

「重要な契約等」の「概要」として記載する内容

仮に、米国Zachry社らとのJVに関わる契約を「重要な契約」として有報に記載するとしても、有報に記載が求められているのは「概要」です(二号様式記載上の注意(33)a)。

「概要」とあるので、必ずしも契約書全文を掲載することまでは要しません。

しかし、有報は、そもそも株主・投資家に情報を提供して、投資の判断に役立てるための資料です。

千代田化工建設が有報に「事業等のリスク」として「パートナーの債務不履行や財政状態の悪化等が生じた場合は、当社グループが契約上の連帯責任を負うため、当社グループの経営に影響を与える可能性があります。」と記載したのであれば、どんな契約を結んだかだけではなく、どんなケースでどの程度の責任を負うことになるのか、その責任の範囲や影響の程度はどれくらいなのかを株主・投資家が判断できる程度の情報は「重要な契約」の「概要」として提供するのが筋であるように思います。

「契約上の連帯責任を負う」の「契約」が米国Zachry社らとのJVに関わる契約を意味しているのであれば、当該契約の中で責任に関わる条項の詳細までも「重要な契約」の「概要」として開示するのが望ましいのではないでしょうか。

有報は株主・投資家の投資の判断のために開示するためのものであるから、株主・投資家が判断できる程度の情報を開示すべきという考え方は、今回の千代田化工建設に限らず、他の開示すべてに当てはまるはずです。

「概要の記載は、この程度がいいかな」と判断に悩んだときには、「株主・投資家が知りたい情報はこの程度で充たしているかな」という観点で判断するようにしてください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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