こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
アツギ、シャープとSNSの公式アカウントの運用が不適切であったことを理由に謝罪するケースが連続しました。
今回は、この2つのケースを題材に、企業がSNS公式アカウントを運用する際に注意すべきポイントを説明します。
問題とされたアツギとシャープのXの運用
両社の経緯は次のとおりです。
アツギが「いいね」したリアクションに批判
女性用タイツなどを扱うアツギは、2024年3月24日にXの公式アカウント(アツギが扱うブランド「アスティーグ」のアカウント)がフェミニストを揶揄する投稿に「いいね」のリアクションをしたことについて批判が集まり、3月26日に謝罪のリリースを掲載し、かつ、 今後投稿並びにリポスト、いいね等のリアクションを行わず、当面の間運用を停止することを公表しました。
詳細はこちらの記事が詳しいです。
アツギは、2020年11月にもラブタイツキャンペーンとして掲載したイラストが性的であるとの批判を受け謝罪し、2023年11月にも「黒タイツだと芋くさくなる人」との表現が不適切であるとの批判を受け謝罪したこともあり、公式アカウントが謝罪に追い込まれたのは今回で3回目です。
シャープが「まずまずうまい」と投稿した表現などに指摘
シャープは、2024年3月25日に、Xの公式アカウントにて、自社製品「ホットクック」の広告宣伝として、ホットクックずぼら飯/限界飯を紹介した際の表現などが不適切であるとの声が挙がったために、3月28日に、公式アカウントにて謝罪しました。
詳細はこちらの記事が詳しいです。
なぜ企業のSNS公式アカウントの運用が炎上してしまうのか
公式アカウントが炎上してしまう理由
アツギやシャープに限らず、企業のSNS公式アカウントが炎上し謝罪するケースは少なくありません。
本ブログでも、去年の5月に雑誌LARMEがInstagramのストーリーに投稿した企画動画が炎上し謝罪したケースを取り上げています。
企業の公式アカウントに批判が集まり炎上してしまう理由のいくつかは、LARMEを取り上げた際にも触れていますが、その記事で挙げた理由以外にも考えられるものとしては、会社の看板を背負う「公式」の振る舞いとしては適切ではないこと、が挙げられます。
公式アカウントの「中の人」が常日頃から持つべき意識
公式アカウントは会社の看板を背負っている
ここ数年は「緩いアカウント」として、企業の「公式」らしくない人間味あふれる表現を投稿することが受け入れられています。
企業への親しみやすさをアピールするためには、緩いアカウントにはメリットがあります。
しかし、「公式」である以上は、その会社の看板を背負っています。
会社の看板を背負っているとは、公式アカウントの言動は、その会社のオフィシャルな姿勢や意見と見られるということでもあります。
少なくとも、「中の人」は、このことを自覚する必要があります。
アツギのリアクションに対する理解と批判した人たち
アツギは、以前からフェミニストから口汚く叩かれていた背景がありました。
その状況下で、アツギが国際女性デーで企業部門賞「女性応援ブランド賞」を受賞したために、そうしたフェミニストを嘲笑う投稿が第三者からなされました。
この投稿をアツギが「いいね」するリアクションをしたのです(アスティーグのアカウントの「いいね」のタブに出てきます)。
このリアクションの意味としては、アツギの社名が投稿内容にあったからなのか、それともフェミニストを嘲笑う趣旨に賛同したのかは、わかりません。
日頃からの「いいね」のリアクション履歴を見ると、アツギの社名が投稿内容に含まれていると「いいね」を押しているように理解することもできます。
これまで叩かれていた背景を踏まえると、嘲笑う趣旨に賛同したくなる「中の人」の気持ちも理解できないわけではありません。
いろんな意味で理解することができます。
今回のアツギに対する批判の声は、「いいね」のリアクションの趣旨をフェミニストを嘲笑う投稿に賛同するもの、と理解した人たちから挙がりました。
「中の人」が投稿する前に自問自答すべきこと
正直なところ、企業がどんなに気を遣って慎重に投稿やリアクションをしても、他人の言動を悪い意味で捉えようとする人や揚げ足を取ろうという人は少なからず存在します。
そのため、こうした批判の声が挙がっても無視するという対応策もないわけではありません。
とはいえ、「公式」のアカウントである以上は、企業に批判の声が挙がり、信用が低下することはなるべく避けなければなりません。
批判の声を減らすためには、公式アカウントの「中の人」は、投稿やリアクションをする前に、会社の看板を背負っている自覚を持つことと、かつ、会社の看板があるからこそウケていると謙遜して自重することを忘れないでほしい、と思います。
自重するとは、品性を保ち、卑下しないことを意味します。
「中の人」は、投稿や「いいね」のリアクションをする際には、
- 「この投稿に『いいね』のリアクションをしたら、会社が投稿内容に賛同していると誤解されるのではないか」
- 「投稿の内容には賛同したいけれど、投稿者のスタンスや思想が偏っていたり、表現が品がないから、公式アカウントが『いいね』のリアクションをするのは避けた方が良いのではないか」
- 「緩い投稿を心掛けてはいるけれど、この表現は羽目を外しすぎたと指摘されるのではないか」
など悪い事態を想定し自問自答してほしいのです。
もちろん、時には、
- 「賛否両論が分かれるかもしれないけれど、あえてこの表現をしよう」
と考えて、炎上覚悟の投稿やリアクションをすることがあってもいいかもしれません。
特に、企業に対するクレームなどへの反論を投稿する場合には、そうした事態もあると思います。
迷った時には「中の人」が自分だけで判断するのではなく、周りにいる他の従業員にも意見を聴いてから、「いいね」のリアクション投稿する内容や表現をするようにしたらいいのではないでしょうか。
他方で、明らかに偏った考え方の投稿に「いいね」のリアクションをするときには、公式アカウントからではなく、プライベートのアカウントからすべきだとも思います。
2022年1月には、四国放送のアカウントの「中の人」が、プライベートのアカウントから投稿しようとしたところ過って公式アカウントから政治的に偏った考え方を投稿したことで懲戒解雇されたケースも起きています(詳しくは、以前のブログ記事で取り上げています)。
企業の公式アカウント運用上の難しさ
「中の人」のこうした自問自答や周囲の人の意見を訊くことを社内ルール化して「投稿や『いいね』のリアクションをするためには、社内の上長の承認を必要とする」などとすると、途端に、「緩いアカウント」ではなく「つまらないアカウント」になってしまいます。
さじ加減が難しいところです。
SNS公式アカウントの「運用ガイドライン」や「運用ポリシー」だけを定め、人種差別的な投稿はしないなどの大まかな方向性や絶対に避けるべきことだけを定めておけば良いと思います。