不正の調査に第三者委員会の設置は絶対に必要か?第三者委員会を設置すればそれですべて許されるのか?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

一昨日、昨日とジャニーズ事務所に絡めた投稿をしましたが、今日もジャニーズ事務所に絡めた話題です。

ジャニーズ事務所は今回の性加害問題について第三者委員会を設置することを否定しました。

これに絡めて、今日は、不正・不祥事が発生した後に第三者委員会の設置は絶対に必要か、第三者委員会を設置すればそれですべて許されるのか、についてです。

結論は、不正・不祥事の規模や種類、第三者委員会の質による、です。

理由を説明します。

本来は取締役会の役割

最近は、上場会社やそのグループ会社を中心に、不正・不祥事が起きると第三者委員会(調査委員会)を設置するのが流れになっています。

しかし、本来は、不正・不祥事が発生した後の社内調査や関係者への調査は取締役・取締役会の責任で行われるものです。

取締役・取締役会が善管注意義務を負い、企業価値を最大化するための経営判断をする責任を担っているからです。不正・不祥事が発生したときには、企業価値ができるだけ下がらないように経営判断をしなければならない責任を負っています。

そのために、取締役・取締役会は日頃から内部統制・ガバナンスを整備し、不正・不祥事の発生を予防することが法律上義務づけられ、また不正・不祥事が発生したあとの危機管理体制を整備することを法律上義務づけられています

繰り返しになりますが、不正・不祥事が発生した後の対策を行う法律上の責任を負っているのは取締役・取締役会です。

不正・不祥事が発生した後にも社内調査を行うことが大原則で、第三者委員会を設置することは必要不可欠ではありません。

第三者委員会を設置するのは「信頼されていない」と経営陣が自覚しているとき

そうであるにもかかわらず、第三者委員会を設置する会社が増えているのはなぜでしょうか?

第三者委員会を設置する主な目的は

  • 第三者が調査することで、独立した立場から公正・中立に調査した結果が出る
  • 第三者が調査することで、独立した立場から徹底的に調査した結果が出る
  • 第三者に調査を依頼した姿勢が、経営陣が不正・不祥事の再発を許さない姿勢を示せる
  • 第三者の調査結果を公表することで、信頼回復に繋がる

だと思います。

要約すると、取締役・取締役会は、社内調査だけで危機管理するよりも、第三者に調査してもらったことをアピールしたほうが会社の信頼を回復できるときに、調査委員会を設置するのです。

嫌味な言い方をすると、第三者を入れなければ自分たちは信頼してもらえない存在であると自覚しているときに、第三者委員会を設置することになります。

例えば、品質不正や不正会計のように組織的な問題や企業風土が問題になる不正や不祥事が起きた場合には、そもそも、株主・投資家、世の中の人たちは、会社自体を信頼していません。

また、役員・経営陣が関与している不正・不祥事では、社内調査が萎縮し徹底されないことが容易に想像できます。

こうした場合には、社内のメンバーだけで調査をしても信頼を回復することは難しいので、第三者委員会の設置が必要です。

ジャニーズ事務所が「第三者委員会を設置しない」判断は信頼低下を招く

ジャニーズ事務所は、調査委員会を設置しない理由を次のように説明しました。

調査段階で、本件でのヒアリングを望まない方々も対象となる可能性が大きいこと、ヒアリングを受ける方それぞれの状況や心理的負荷に対しては、外部の専門家からも十分注意し、慎重を期する必要があると指導を受けたこともあり、今回の問題については別の方法を選択するに至りました。

2023.5.14 NHK NEWS WEB

これは設置しない理由にはなりません。

前社長が故・ジャニー喜多川氏が性加害を行い、それが20年以上前から報じられ、週刊文春との訴訟でも負けているのに、これまで何ら対策していませんでした。しかも、故人であることを理由に「(事実を)確認できない」と説明しました。

到底、社内調査が徹底されないことを予想され、社内調査だけでは信頼の回復は見込めない状況です。

ジャニーズ事務所が説明した懸念があるとしても、第三者委員会が被害者に配慮しながら調査すれば良いだけです。そもそも第三者委員会を設置すらしないのは判断としては誤っていると思います。

第三者委員会を設置しない判断が、さらに信頼を低下させる印象を受けます。

第三者委員会を設置しさえすれば、それですべて許されるのか?

ジャニーズ事務所の件に限らず、不正、不祥事は当事者が調査するよりも第三者が調査した方が、公正・中立な調査、徹底した調査が行われた「雰囲気」が出ることは間違いありません

しかし、第三者が調査したからといって信頼を取り戻せるようになるかは、誰を第三者に選んだか、第三者にどんな調査をするように依頼したのか(依頼内容)に依ります。

第三者委員会の質の問題と言ってもいいでしょう。

第三者委員会の公正・中立性

第三者委員会を設置するときには、顧問弁護士を第三者委員会のメンバーに入れることが思いつくかもしれません。

しかし、顧問弁護士は第三者委員会のメンバーには適していません。

顧問弁護士は、日頃経営陣から依頼を受けて法律相談をしている立場です。経営陣寄りで独立性、公平・中立性を欠くと見られるので、第三者委員会には向いていません。

誰を第三者委員会のメンバーにするかが問題になった事例として、去年話題になったTOKAIホールディングスの件があります。

当時の社長が会社の経費でコンパニオンと混浴していたなどを理由に代表取締役から解職され、取締役から辞任を勧告され、最終的に取締役から辞任した件です。

この件では、当初、当時の社長を解職した取締役たちが相談し、代表取締役を解職するための緊急動議にも関与していた弁護士が委員長に選ばれました。しかし、社外監査役から独立性、公正・中立性を確保するように指摘されたため、別の弁護士に交代することになりました。

なお、TOKAIホールディングスの件では、第三者委員会の独立性を確保するため、当初、調査委員会のメンバーに選んでいた社外取締役も外し、完全に社外の第三者だけで構成する委員会になりました。

詳しくは、TOKAIホールディングスの調査報告書でご覧下さい。

このように、第三者委員会の調査結果の公平・中立を確保するためには、委員会のメンバーの独立性、公平・中立性が問題になります。

第三者委員会への依頼内容

第三者委員会が公正・中立な調査を行うか、徹底した調査を行うかは、会社が第三者委員会に依頼した調査の内容にも依存します。

多くの調査報告書の冒頭には「調査の目的」という欄が設けられています。

そこに、会社からどんな調査をするように依頼されたか、その依頼に基づいて、どの範囲で、どんな調査をしたかが記載されています。

会社が狭い範囲の調査しか依頼しなければ、第三者委員会はその狭い範囲しか調査しません。会社が膿を徹底的に出すように広い範囲の調査を依頼すれば、第三者委員会は徹底的に調査します。

例えば、東京オリンピックに関わる贈収賄が問題になったAOKIホールディングスの調査報告書には、

本調査・検証の目的は、あくまでもコンプライアンス及びガバナンスに関する再発防止策の提言であるため、本件贈賄事件に関与した役職員の責任問題については、本調査・検証の対象外としている

と記載されています。

結局、第三者委員会による徹底した調査が行われるかどうかは、経営陣が依頼した内容によります。

経営陣が自分たちの信頼を増したいと考えれば、広い範囲の調査を依頼すべきでしょう。反対に、狭い範囲の調査だけを依頼するのは、「とりあえず調査をした」という体裁だけを取り繕うときに限られるでしょう。

公表されている調査報告書を読むことで、経営陣が本気かどうかがわかります。

なお、第三者委員会の調査報告書へのあれこれについて、日経ヒューマンキャピタル・オンラインにてプリンシプルコンサルティング・グループの秋山進氏と2023年4月から連載を開始しましたので、そちらも目を通していただけるとうれしいです。

まとめ

不正・不祥事の調査は本来であれば取締役・取締役会の責任であることが大原則です。

それを踏まえた上で、社内調査だけでは信頼を回復できない場合に、メンバーの公平・中立性を確保し、徹底した調査が行われることを条件に、調査委員会を設置するのです。

調査委員会を設置すれば、取締役・取締役会の免罪符になるわけではありません。

また、調査委員会に調査を任せればそれで終わりではありません。取締役・取締役会は調査報告書を調査委員会から受け取ったら、その内容が信用できるかについて自分たちの目で確認する必要があります。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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